五輪エンブレム 信頼を取り戻す契機に
2020年東京五輪・パラリンピックのシンボルとなる公式エンブレムがようやく決まった。
模倣疑惑などの末に旧エンブレムが昨年9月に白紙撤回されてから約8カ月。再選考にあたっては手続きの公正さを一番に透明性や公開性の確保に努めた。4作品に絞り込まれた最終候補の中から、各界の有識者21人で構成されるエンブレム委員会はアーティスト、野老(ところ)朝雄(あさお)さんの作品「組市松紋」を投票で選んだ。
1964年東京五輪のエンブレムは日本を代表するグラフィックデザイナー、亀倉雄策(故人)がデザインした。日の丸を思わせる太陽と五輪マークを組み合わせたシンプルかつインパクトのある作品で、美術の教科書などにも掲載されている。
4年後に向け、市松模様のエンブレムを定着させ、前回の東京大会同様、半世紀を経ても色あせないものにしたい。
旧エンブレムは模倣疑惑に加え、閉鎖的な選考方法が問題だった。
前回選考には主要コンクールで複数の受賞経験があるなど限られた専門家しか参加できなかった。ひそかに参加を要請した8人のトップデザイナーのうち2人の作品が1次審査で票が少ないことが分かると、審査委員代表を務めた著名なデザイナーが票を投じて2次に進ませた。
そのうえ、発表された作品は最終審査の後、ひそかに2度の修正が加えられていたことが判明した。
こんな密室選考による作品では国民の共感は得られない。
仕切り直しとなった選考では、18歳以上であれば日本人だけでなく、日本在住の外国人でもOKとし、代表者が年齢などの条件を満たせばグループによる応募も認めた。
最終候補作品は今月初めに公開された。延べ4万人から寄せられた約11万件の意見を踏まえ、各委員は最終審査で1票を投じた。会議の一部をインターネット中継で公開したのも透明性をアピールし、密室選考との批判を招かぬためだった。
伝統色の藍色で描かれた新エンブレムは形の異なる3種類の四角形を45個組み合わせて違いを示し、国や文化・思想を超えてつながり合う多様性を表現したという。全ての人が納得するデザインというのは難しく、不満な人もいるだろう。だが、前回と異なり、公正を期した選考だったことは間違いない。
20年東京大会については昨年、新国立競技場の整備計画が建設費の高騰などを理由に白紙撤回されるなど不手際が目立つ。3年前、招致成功を歓迎した国民の多くは水を差された思いだろう。大会組織委員会は新エンブレムの決定を機に信頼を取り戻すべく努力してほしい。