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緊急政策提言 :人口減少社会における“活断層法”を活用した国土計画の再考を 蛭間芳樹 ( 株式会社日本政策投資銀行 )

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平成28年熊本地震で被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます。お亡くなりになられた方々、ご遺族様に謹んでお悔やみ申し上げます。

東北の被災地がいまだ東日本大震災からの復興途上にあるなか、熊本県、大分県をはじめ九州地区広範に渡り大きな地震が起きている。ここ数年は、「次は、南海トラフか、いや首都直下地震だ」という“空気“があり、そのような情報を政府もマスコミも積極的に出してきた。常総市の豪雨災害、そして今回の震災を踏まえるに足元をすくわれた感じがあるだろう。

九州地域では、今もなお余震が続いているほか、直接的な関係は認められないとしながらも阿蘇山噴火のように火山活動が活発化している。海外に目を転じれば、エクアドルでも大きな地震が発生した。もはや、忘れた頃にやってくる、という様な頻度ではなく、巨大地震が連発することが状態化するニュー・ノーマルへと我が国の自然環境は常態変化したのかもしれない。

被災地で非日常下での生活を余儀なくされている被災者の皆様に対して、そして緊急対応や復旧活動にご尽力されている方々に対して最大の敬意を表しつつ、私はあえて問題提起をしたいと思う。防災政策上、タブーとされてきた「活断層法」についてだ。

この重要な防災上の論点について、残念ながら日本は特段の手を打ってこなかった。

本稿の目的は、悪者を探すのではなく、これからの中長期的な人口減少社会における国民の生命と財産を護るための重要論点として活断層との共存方法を提示することにある。国全体の防災戦略を考えた場合の、必要なリスク・コントロール施策として、議論をする必要があるのではないか。

諸外国の活断層対策――「活断層法」

2005年10月8日、パキスタン北部で発生したマグニチュード7.6の地震では、8万人を超える犠牲者を出した大震災となった。

この地震は逆断層タイプの地震で、震源域の北部に位置していたバラコット(Balakot)では、断層の盤に対して乗り上げるように動いた上盤に位置していた市街地が壊滅的な被害を受けすべての建物が倒壊し、住民の85%にあたる1661人が犠牲になった。これに対して、下盤では被害を免れた建物が多かったとの報告がある。

このように、活断層の位置によって、被害にかなりの違いがある。つまり、活断層に関する情報は、災害を軽減するためには欠くことができない重要な情報なのだ。活断層リスクを防災対策上の主要テーマとして政策議論することは世界の常識であり、具体的な対策事例もある。

たとえば、アメリカ合衆国カリフォルニア州では「Alquist-Priolo Special Studies Zones Act」、俗にいう「活断層法」ともいうべき法律が1972年に制定され、防災上の効果を発揮している。1971年に発生したサンフェ ルナンド地震では地表断層の上では建物の被害が80%近くに達したのに対し、断層からわずかに離れた場所では 被害は30%にも達しなかった。

そこから断層変位の危険性が再認識され、「活断層法」の制定に多大の影響を与えた。この法律のポイントは、リスク回避を促す法的なリスク・コントロールにある。

単純で合理的な都市計画における法規制、ゾーニングの一種と言っても良い。手続きは、まず、州の地質調査所が、断層被害が生ずる可能性のある幅約300mの特別調査地帯(Special Studies Zone)を設定する。ゾーン幅は1/4マイル(0.4km)程度。この特別地帯に対して、自治体は活断層地表痕跡の直上での新築・大規模改築に対して建設許可を与えてはならならず、また、域内での居住や構造物建設の際には、地質調査報告書の提出が義務づけられている。

さらに、調査によって活断層が発見された場合、断層から50フィート(15m)ほど建物をセットバックして建設することが義務づけている(ただし適用外物件もある)。さらに、特別地帯内に存在する不動産売買にも規制があり、不動産販売者は購入者に対し、物件が断層ゾーン内に立地している旨を伝えることが義務づけられており、これは不動産価格に当然に影響する。リスク情報を告知する義務が法的に課せられている。

このように、活断層法は都市計画や建物安全基準法の中の重要な一つの要素として活用されているのだ。

日本での「活断層法」の適用の必要性と課題

では、日本において、住宅やマンションの購入の際、活断層情報の提供を不動産事業者から受けた方はいるのだろうか。建築基準未達で大騒ぎしたような関心が近年散見されるが、積極的に資産保有者として活断層リスクを確認した人はどれだけいるだろうか。

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