▲Microsoftから発売されたSurface Pro 4 Signature タイプカバー (Alcantara)
MicrosoftのSurface Pro 4は、いわゆる2-in-1デバイスの代名詞的な存在として、PCとタブレット両方のニーズを満たしたい人にはお馴染みの選択肢だろう。その大きな特徴の一つに、脱着可能なタイプカバーキーボードがオプションで用意されており、それを装着するとタブレットがPCに早変わりするという点がある。
このタイプカバーに新しいモデルが先日追加された。それが『Surface Pro 4 Signature タイプカバー (Alcantara)』と呼ばれる製品で、外装素材に高級自動車などでよく使われているAlcantara(アルカンターラ)が使われた高級モデルとなる。標準タイプカバーキーボードに比較して約5000円のプラスとなるこのモデル。果たしてどんな製品なのか、実機を使って評価していきたい。
高級自動車にも採用されるAlcantaraとはどんな素材か
▲パッケージにつけられたAlcantaraのロゴ
Alcantaraは、イタリアの素材メーカー「Alcantara S.p.A.」が販売するスエード調人工皮革(じんこうひかく)のブランド名となる。本革と同じような手触りを実現しながら、手入れをする必要がほとんどないという特徴が受けて、ヨーロッパの高級車などに多数採用されている、自動車業界では非常に名高いブランドだ。
Alcantaraはもともと、日本の素材メーカーである東レ株式会社(以下東レ)の"エクセーヌ"や"ウルトラスエード"のブランド名がつけられた人工皮革と先祖を同じくする。
エクセーヌ/ウルトラスエードとAlcantaraの源流となる技術は、1970年に東レの技術者だった岡本三宣氏が開発したモノで、それを東レが発展させていったものがエクセーヌ/ウルトラスエードとして、そしてイタリアでAlcantara社が発展させていったものがAlcantaraというブランド名で製造・販売され、今に至っている。
Alcantara社は、ファッションに敏感な層にもアピールし易いイタリアのブランドであることにこだわっており、同社はイタリア国内で開発、製造までを一括して行っている点を特徴としている。
このようなブランド戦略を元にしたAlcantara素材は、ランボルギーニ、アウディ、メルセデス、BMWといった高級自動車メーカーに次々と採用され、欧州での高級車の内装=Alcantaraというイメージを確立することに成功している。現在は高級車やスポーツカー、ラグジュアリーカーといった高価格帯の自動車や、普及価格帯の中でも特別仕様車など、高付加価値なグレードに採用される例が多い。
なお、当初Alcantara社は現地資本が51%、東レが49%出資する会社としてスタートしたが、現在は東レが70%、三井物産が30%を所有する企業となっており、実質的には日本資本のイタリア企業となっている。
つまり現状では、どっちも大本をたどれば東レということになるのだが、東レブランドのウルトラスエードはより普及価格帯の製品に、Alcantaraは上述したようにより高級な路線の製品への採用が中心となる。自動車で言えば、たとえばトヨタ車がトヨタとレクサスにブランドを分けているような位置づけとなっている。
Alcantaraの採用でなめらかで優しい手触りに
▲Surface Pro 4 Signature タイプカバー (Alcantara)のパッケージ
そうした歴史を持つAlcantara素材だが、素材としての特徴は、本革と同じようになめらかな手触りを実現していること。本革では絶え間ない手入れ(磨き込みなど)が必要になるが、Alcantaraの場合には本革ほど注意して手入れする必要がなく、本革のような質感を得ることができるのが最大のメリットだ。そうした手入れの必要性の低さや耐久性が本革に比べて高いことなどが評価され、高級車などに採用されるようになったのだ。
Surface Pro 4 Signature タイプカバー(Alcantara)に使われているAlcantara素材はキーボード裏面とキーボード面の両面に貼られている。色はグレー系だが、濃い箇所と薄い箇所の2色を組み合わせたものとなっている。
なおキーボード面に関しては、キーとキーの間もAlcantaraが貼られているが、キートップとタッチパッドは標準キーボード(Surface Pro 4 Type Cover)と同じ素材だ。
▲Surface Pro 4 Signature タイプカバー (Alcantara)をSurface Pro 4に取り付けたところ
まずカバー面を触った感じだが、標準キーボード(素材はフエルトないしは不織布と思われる)を触ったときには若干のざらつきがあるのだが、Alcantaraキーボードの方はざらざら感を残しつつも手触りが良くなる。
キーボードをSurface Pro 4に装着させた状態で片手で持つと、すべすべだがちょっと引っかかるというか、本革のような指に吸い付く感じと言った印象だ。
▲Surface Pro 4に装着して閉じた状態
キーボード面には、タッチパッドの左右にあるパームレスト部分にもAlcantaraが貼られているので、気分的には本革張りのキーボードで入力している感じがある(そんなキーボードがあるのかは知らないが......)。
気になるのは、パームレスト部分の耐久性だ。ここは長時間使っていると手のひらが当たる箇所のため、汗のにじみなどは避けられない。実際、塗装の精度が甘いメーカーのPCだと、ここの塗装がはげてくるということはよくある話だ。
もちろん、今回はそこまでの耐久性を試すことはできていないので、長期間使ってどうなのかということは正直わからない。ただ、Alcantaraの場合は塗装ではないので、素材そのものがはげない限りは大丈夫そうだとも考えることができるし、その耐久性は自動車のシートで折り紙付きであることから、期待していいだろう。
なお、実際に長時間手のひらに汗がにじむ程度まで使ってみたが、特にそれで何か不快に感じることはなかったことを付け加えておく。
ただ、唯一残念なのは、外箱にこそAlcantaraのロゴは入っているものの、キーボードにはどこにも入っていない事。自動車の内装に採用されている場合などには、使われている箇所にAlcantaraロゴが入っている場合があるので、このキーボードにもどこかにAlcantaraのロゴが入っていた方が満足度が高かったのではないだろうか。実際の質感も高く手触りも素晴らしいのだが、ここだけがちょっと残念だった。
より高級感を求める人にお勧め
今回Surface Pro 4 Signature タイプカバー (Alcantara)が販売開始されたことで、Surface Pro 4用のキーボードの選択肢は次表の3つになった(これらのタイプカバーはSurface Pro 3でも利用できる)。どれを選ぶかはユーザーの目的と予算次第となる。
Surface Pro 4 Type Cover | Surface Pro 4 Type Cover (指紋認証センサー付き) | Surface Pro 4 Signature タイプカバー (Alcantara) | |
販売ルート | 量販店/Microsoft Store | 量販店/Microsoft Store | Microsoft Store |
価格(税込/Microsoft Store価格) | 1万7712円 | 2万2118円 | 2万2118円 |
カラーバリエーション | ブラック/ブルー/シアン/レッド/ティールグリーン | ブラック | グレー |
寸法 | 295 mm x 217 mm x 4.9 mm | 295 mm x 216 mm x 4.65 mm | 未公表 |
重量 | 約295g | 約310g | 約292g |
素材 | 通常 | 通常 | Alcantara |
指紋認証 | - | 有り(タッチ方式) | - |
なお、表中の重量はMicrosoftの公式なスペックを入れたが、実測してみると標準キーボードが308g、指紋認証センサー付が302g、Alcantaraキーボードが295gと公式スペックとはずいぶん違いがあった。
スペックには「約」とついていたので、きっとそこにその誤差が含まれているのだろう。ただし今回の測定は簡易的な重量計を使っているので、そちらの誤差である可能性もあることは付け加えておく。
▲Alcantaraキーボード(Surface Pro 4 Signature タイプカバー/Alcantara)は実測で295g
標準キーボード(Surface Pro 4 Type Cover)のメリットは、言うまでもなく一番安いこと(Alcantaraや指紋認証あり版と比べて約5,000円安い)と、ブラック/ブルー/シアン/レッド/ティールグリーンという5色から選べるカラバリの豊富さだ。
これに対して指紋認証センサー付キーボードは黒、Alcantaraキーボードはグレーしか選べないので、赤や青、緑を選びたいユーザーは標準キーボード一択になる。
指紋認証センサー付(Surface Pro 4 Type Cover/指紋認証センサー付き)のメリットは、その名の通り指紋認証センサーがキーボードについており、そこに指をタッチすることでWindowsにログインできることだ。
なお、この指紋認証センサーは、Windows 10の生体認証機能であるWindows Helloを利用しており、Surface Pro 4の場合には内蔵されている3Dカメラによる顔認証でも同じく生体認証ログインが可能だ。
そちらを既に使っているユーザーの場合には、指紋認証センサー付を導入しても、認証方法こそ変わるものの、実は使い勝手は大きくは変わらない。実はこの選択肢が一番有益なのは3Dカメラが内蔵されていないSurface Pro 3のユーザーかもしれない。
▲タイプカバー3種の外観比較(上から標準版のブラック、指紋認証センサー付き、Signature版)。キー配列やタッチパッドの面積などは共通だ
さて、こうしたAlcantaraキーボード(Surface Pro 4 Signature タイプカバー/Alcantara)を選ぶべきユーザーは誰かという点に関してだが、1つにはやはり標準タイプカバーの質感には満足できないという方だろう。
既に述べた通り、カバー面も、パームレストも肌触りがよく、まるで本革という質感は非常に高いと言ってよい。5千円という価格差の価値をどこに見いだすかは人それぞれだが、買えない価格でもないため、ブランドの価値だと考えれば十分にある価格差だろう。
そしてもう1つ見逃せないポイントとしては、このAlcantaraキーボードが量販店では売っておらず、Microsoft直営のWebストアであるMicrosoft Storeでしか販売していないという点だ。つまり、持っている人の数は、標準キーボードに比べて圧倒的に少ないはずだ。こうした点から、他のユーザーとの差別化という点でも、このAlcantaraキーボードはなかなか魅力的な選択肢ではないだろうか。
例えば、カフェなどでPCを見ていると、一時期はAppleのMacBookシリーズ一色だった時代から、2-in-1の利便性を評価してかSurface Proシリーズでというユーザーが増えているように感じる。同じSurface Pro 4でもこのAlcantaraタイプカバーを付けていると、さりげないポイントではあるが、他ユーザーとの差別化アピールにもなるのではないだろうか。