監督 脚本ハイファ・アル=マンスール 1月11日、静岡シネギャラリーにて鑑賞。 サウジアラビアでは、何と法律で映画館の設置が禁止されているという。女性に対する差別が激しく、そんな状況の中で、よく女性監督が映画を撮れたと思う。女性は独り歩き、車の運転の禁止、自転車は女子の乗るものでないというのが常識だ。親兄弟・夫以外のいる場所では、黒い布で全身を隠さなければならない。男に歌声を聞かれてもいけない。教育は全て男女別学。結婚は親が決めることが多く、男は同時に4人までの女性と結婚できる。家系図には男の名前しか乗らず、父親は男の子が生まれることを望んでいる。完全に男主導の世界で、ワジダ(ワアド・ムハンマド)という10歳の自由奔放な少女が、自分の自転車を手に入れる為に行動を起こしていく。 コーランを唱えている女子生徒たちの中で、ワジダだけがスニーカーを履いている。みんな黒ずくめの衣装を身にまとっているので、個性が見えない中、足元で彼女の異端振りを描写している。ワジダはコーランより、ラジオから流れる音楽の方が楽しそうだ。 ワジダの母(リーム・アブドゥラ)は、働きに出ている。女性が車を運転してはいけないので、他の働く女性たちと共同で運転手イクバルを雇っている。母は遅刻が多いようで、イクバルから小言を言われている。こんな嫌みな運転手でも頼らなければならない生活できない女性の立場の弱さが窺える。 母親の出発と入れ違いに、父(スルタン・アル=アッサーフ)が帰って来る。1週間留守にしていたようだが、どこで何をしていたかは分からない。夫婦の擦れ違いが、関係性の行く末を暗示しているようである。後に第二夫人の存在が明らかになるが、理由は男の子を産めなかったからである。男は複数の女性と結婚できるが、女性にとって夫は一人だけなので、それでも夫に頼らざるを得ない女性の立場の弱さがここでも露呈される。それでもブティックで、夫の好みの服を選ぶ女性心が哀しい。 アブドゥラ(アブドゥルラフマン・アル=ゴハニ)という男の子は、ワジダのサンドイッチやスカーフを奪って嫌がらせをするが、これは男子特有の、気になる女子をからかいたいという気持ちの表れだろう。どこの国の男子も、精神性の幼さは同じである。アブドゥラの本心は、後にプレゼントされるもので伝わって来る。「女が自転車なんてダメだ」と言いながら、次第にワジダの協力者になってくれる展開が、とても微笑ましい。 ワジダに自分の自転車で練習させてあげるシークエンスが良い。アブドゥラは彼女の為を思って補助輪をつけてあげるだが、ワジダはそれが気に入らない。大騒ぎするので外してあげたのに、やはり乗れないのが可笑しい。結局アブドゥラが後ろを支えて走る手助けをしてあげるのだ。 ワジダの自転車に対する執着が、この物語を進める原動力となり、この国のしがらみから女性を解放させる為の希望の象徴となる。自転車を持つアブドゥラにライバル心を抱いたことが切っ掛けとなり、何とか自転車競走で彼に勝ちたいと思う。自転車がまるで塀の上を自分で走っているように見えるショットが印象的だ。このシーンの為にあの塀を作ったのか、それとも上手い具合にあった塀を利用したのか。何れにせよ、ワジダの心を自転車の虜にするシーンとして効果的だ。 店で見つけた自転車が気に入り、店主に売らないでと頼んだり、母親が買ってくれないと知ると、自分でお金を貯める為にミサンガを作って売ったり、頼まれごとにもしっかりと報酬を要求するなど、目的の為なら手段を選ばずに、真っ直ぐに突き進もうとする前向きな姿勢からは、勇気を分けてもらえる。そのどれもがこの国のタブーに挑戦するかのようで、彼女は明らかに問題児なのだが、ワジダの成功を祈らずにいられない。 ワジダはコーランの暗誦大会の優勝賞金が1000リヤルであることを知り、自転車を買う為に苦手なコーランに挑戦することになる。コーランの知識を得る為のクイズ形式の四択のゲームがあるのが面白い。 ワジダの敵キャラとなるのが、ヒッサ校長(アフドゥ)。序盤から口煩くワジダの前に、悉く立ち塞がる。女性でありながら、率先して女性に不自由を強いる教育をする立場である。校長の家に泥棒が入ったということはみんなに知られているが、実は恋人が来たのをごまかす為という噂が流れていて、ワジダはそれこそが真相だと信じて疑わない。ワジダにとって校長は偽善者であり、対立して当然であるという認識のようだ。反面、もしそれが真実なら、校長もまた、イスラム社会の性差別の被害者ということにもなる。自分の立場を守る為には、その事実を隠蔽し通さなければならない。自分の思うままに生きようとするワジダのことを、快く思えないのも止むを得まい。 大会後の校長の申し出は、ワジダへの不寛容の表れか。対する母親の心変わりは、男社会に対する独立宣言のように受け取れる。そして、娘を愛する、幸せを願う真の母親の姿に、熱い気持ちが込み上げてくる。 |
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おはようございます。
サウジアラビアでは、映画館の設置が法律で禁じられているのですね。
国民の皆様の自由がトテモ束縛されていることを感じました。
2014/1/22(水) 午前 7:00
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この映画を作られた監督さんの、勇気もすばらしいです。
サウジアラビヤの人々の生活や、感情をこの映画からでも見てみたいと感じました。
自転車にのって颯爽と風を切る様子が、若い方々の息吹きを感じるようです。
ないす&ランキング往復です。
2014/1/22(水) 午前 7:05
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asahiさん
映画館の設置が禁止されているなんて、とても信じられない法律があったものですね。
それでもDVDなどはレンタルして、家では映画は観られるようです。
2014/1/22(水) 午後 0:22
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そんな国でよく映画が撮れたものだと感心しております。
それもとても良い出来なので、驚きました。
これはお勧めしたい一本です。
ないす&ランキング往復ありがとうございます。
2014/1/22(水) 午後 0:25
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父に自転車の乗り方を
教えてもらった幼稚園時代を
思い出します。後ろの荷台を
手で押さえてもらって
補助輪なしで乗る練習してました。
自転車は車と比べて環境にも
健康にもいいので、もっと自転車が
乗りやすい環境整備(自転車専用道路など)
してもらえるといいですね。
ポチポチ
2014/1/22(水) 午後 10:18
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サウジアラビアっていうと
石油のイメージしかありません。
映画を観ることで、この国の
文化や風習にも少しは触れる
ことができそうですね。
2014/1/22(水) 午後 10:19
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僕も子供の頃、初めて自転車に乗れた記憶は、鮮明ですね。それだけエポックメイキングな出来事でした。
兄が僕の自転車の後ろを持って走ってくれていたのですが、いつの間にか手を離しているのに気づかないで、自分で驚き、又嬉しかったですね。
2014/1/23(木) 午後 0:21
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サウジアラビアの映画っていうのは、本当に珍しいので、お国を知るのにも、貴重な一本だと思います。
ポチポチありがとうございます。
2014/1/23(木) 午後 0:24
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