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安保転換を問う 安全保障法案成立へ 憲法ゆがめた国会の罪

 日本の民主政治は一体どうなってしまうのか。国会周辺を中心に全国各地で反対デモを続ける人々だけでなく、多くの国民が疑問や怒り、そして不安を感じているだろう。

     戦後築いてきた国のかたちを大きく変える安全保障関連法案が参院本会議で可決され、成立する見通しとなった。数々の疑問や矛盾点を置き去りにしたまま、これで集団的自衛権の行使が認められ、自衛隊の海外での活動が拡大する。

     しかも、この法案は国の最高法規である憲法に違反している疑いが極めて濃いにもかかわらず、その指摘に立法府に属している与党議員が耳を傾けようともしなかった。今回の特異さはそこにある。

    言論封じる言論の府

     「どうしても不備な(政府)答弁が目立った気がする」

     議事録も「聴取不能」としか残せないような大混乱の中で17日、参院特別委員会での強行採決に踏み切った鴻池祥肇委員長(自民党)は採決後、こう語ったという。

     これで議論を尽くしたと胸を張れる与党議員はどれだけいるだろうか。審議を一方的に打ち切っただけではない。与党はその後の参院本会議で野党が提出した問責決議案などに対する討論を時間制限する動議まで出して可決した。

     「言論の府」自らが言論を封じ込める。それは「与党の数が上回っているのだから無駄な抵抗はやめろ」と言わんばかりの姿勢だった。野党は衆院でも内閣不信任決議案を提出するなど抵抗を試みたが、与党議員からすれば時間が経過するのをひたすら待つという心境だったろう。

     結局、安倍政権はこうした異論や慎重論を封じ込める独善的な姿勢に終始したといっていい。国民の多くは今回の法整備の中身とともに、安倍政権の強引な手法と、それを食い止めることができなかった国会に強い不満や不安を感じているはずだ。

     集団的自衛権の行使容認は安倍晋三首相の長年の悲願であり、今回は昨夏、集団的自衛権の行使は違憲だとしてきた歴代内閣の憲法解釈を、強引に覆したことに始まる。

     だが、憲法違反だと憲法学者ら多くの専門家が批判し、反対世論が一段と強まったのに対し、首相らは砂川事件の最高裁判決(1959年)などを持ち出すだけで、最後まで説得力のある反論ができなかった。

     憲法98条は憲法は国の最高法規であり、それに反する法律は効力を有しないと明記している。当然、それは承知しているはずだが、首相の側近で今回の法整備をリードしてきた礒崎陽輔首相補佐官は「法的安定性は関係ない」と語った。

     再三指摘してきたように、この発言こそが安倍政権の本音だったろう。政権は行政権の範囲を逸脱し、憲法をゆがめたといっていい。そして与党議員もそれに疑いをはさむことなく追認した。自民党のみならず、支持者の一部にも反対論が出ているのを知っていながら成立を急いだ公明党の責任も重い。

    安倍手法を自公後押し

     さらに憲法99条は、憲法を尊重し擁護する義務を負うのは、天皇または摂政、国務大臣、国会議員、裁判官、その他の公務員だと記している。憲法を守る義務があるのは首相や国会議員らだということだ。憲法は国民を縛るものではなく、権力側を制限し、その独走、暴走を防ぐためにあるというのが立憲主義の基本的な考え方である。

     これに対して自民党が2012年に決定した憲法改正草案には「(国民は)自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚し、常に公益及び公の秩序に反してはならない」などとある。第2次安倍政権発足後、自民党には個人の権利よりも国家を優先する傾向が一段と強まっているのは間違いない。一昨年成立した特定秘密保護法も今回の法整備もそうした流れの中にある。

     今回の法制で自衛隊の海外派遣はどんな場合に認められるのか。審議を重ねても基準はあいまいなままだった。要するに政府の判断に委ねられる範囲が極めて大きいということだ。言うまでもなく今後は国会の承認手続きも重要となる。だが今のような国会できちんとチェックできるのか。疑問が深まるのは当然だ。

     60年の日米安全保障条約改定も激しい反対デモが国会を取り巻く中で承認された。そして首相の祖父である当時の岸信介首相が退陣した後、政権に就いた池田勇人首相は「所得倍増計画」を打ち出し、安保から経済重視への転換を図ってみせた。

     安倍首相も今後、再び経済政策重視をアピールしていくと思われる。来年夏には参院選がある。今回、首相や与党が成立を急いだのは、参院選の直近まで審議が続いて選挙戦に影響するのを避けたかったからでもある。国民には早く忘れてほしいというのが本音であろう。

     だからこそ私たちは、数の力で政権の独走を後押しした議員らを忘れてはならないのである。

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