辺野古取り消し 知事判断は理解できる
沖縄県の翁長雄志(おながたけし)知事が、米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設計画をめぐり、仲井真弘多(ひろかず)前知事による埋め立て承認に瑕疵(かし)があったとして、承認を取り消す手続きに入った。政府は移設作業を中止し、計画を根本から考え直すべきだ。
翁長氏は、承認取り消しの方針を表明した記者会見で、その理由について「周辺海域の環境保全措置が不十分」「米軍機の騒音対策に実効性がない」という環境面に加え、政府が主張する辺野古移設の必要性には「実質的な根拠が乏しい」と指摘した資料を配った。政府が言う「沖縄の地理的優位」や「米軍の一体的運用の必要性」は具体的説明がされていない、などとしている。
同様の認識は、今年7月に県の第三者委員会が出した報告書でも示され、先の政府と県の集中協議でも、翁長氏が菅義偉官房長官らに何度も問いかけた問題だった。
政府は、普天間飛行場を辺野古に移設することが「抑止力を維持し、普天間の危険性を除去する唯一の解決策」と繰り返すばかりだが、本当に辺野古に移設しなければ米海兵隊の抑止力は維持できないのか。これは沖縄県側の根本的な疑問だ。政府側からは納得いく説明がなかった。
翁長氏が承認取り消し方針を表明したことについて、菅氏は記者会見で「前知事が埋め立て承認をした。すでに行政判断は示されており、承認に法的瑕疵はない」と反論した。
埋め立て承認に瑕疵があるから取り消すという県と、瑕疵はないから工事を進めるという政府。現時点では、法的に瑕疵があるか否かの客観的な判断は、軽々にできない。
だが、翁長氏が承認取り消しという手続きに訴えるしかなかったのは、よく理解できる。
そもそも一昨年末の前知事による埋め立て承認は、「県外移設」の公約違反と言われても仕方がない判断だった。その後、昨年の名護市長選、沖縄県知事選などの選挙で、いずれも辺野古移設への反対派が勝利した。沖縄の民意は移設反対ではっきりしているのに、政府は前知事の埋め立て承認を根拠に、民意を顧みず、移設を推し進めた。
今回の判断は、沖縄という一地方自治体を政府がここまで追い込んでしまった結果のように見える。
集中協議の決裂を受けて、すでに政府は中断していた移設作業を再開した。県が来月、埋め立て承認を取り消せば、政府は、取り消しの効力を停止する対抗措置を取って移設作業を続行し、今秋にも埋め立ての本格工事に着手する構えだ。
政府と県の対立は最後は法廷闘争に持ち込まれる可能性が大きい。対立を泥沼化させてはならない。