『スタプラ!』キャラクターエピソード
海鴎琴寝 後編
琴寝はアイドルの卵らしく、可愛らしい歌と振り付けで、何とか実技の追試を乗り切った。
- 先生
- 「ギリギリ合格、だな」
- 琴寝
- 「ちょろいちょろい♪ 良かったわね、下僕。これであんたの成績も上がるわよ」
自分の合格より、相棒の成功を喜んでいるようだ。
- 琴寝
- 「サビに入ると、先生の顔つき変わったでしょ? そこでドーンと一気に、可愛さ五割増しで踊ってみせたわけ。下僕もロリコンだし、ああいうの好きじゃない」
「よく琴寝になんかついていけるよね……」というヒソヒソ話を無視しつつ帰ろうとすると、先生に「ちょっといいかい?」と呼び止められた。
- 先生
- 「海鴎くんはね、良いものは持ってるんだよ。これまでのバディはみんな音を上げたのに、君はよくついていっているとも思う。ただね、海鴎くんには、本当にやりたいことが他にあるような気がして……」
もしそうなら、知られたくなくて隠しているのだろうか?
甘え方を知らない琴寝のことだ。お願いなんかして迷惑をかけたくないから、黙っているのかもしれない。
琴寝の本当にやりたいこと——
*
- 十萌
- 「なるほど〜。それが知りたくて、レッスン後の琴ちゃんがどこに行ってるのか、ストーキングしてみようというわけですね」
十萌さんもたまに人聞きが悪い。
- 十萌
- 「十萌はストーカーじゃないですけど、力を貸すのですよ。名付けて、"もっと知りたい☆コトちゃん調査隊"結成なのです!」
翌日、レッスンを終えた琴寝が向かったのは、街はずれの老人ホームだった。
- お年寄りA
- 「おお、琴寝ちゃん! また来てくれたのかい」
- 琴寝
- 「にひひ、じーちゃんやばーちゃんたちが、ちゃ〜んと生きてるか見に来たの!」
- お年寄りB
- 「わっはっはっ、琴寝ちゃんが輝く演歌の星になっていい旦那さんを見つけるまでは、なかなかどうして死ねんわい」
- 琴寝
- 「だ、旦那さんとか……」
- お年寄りC
- 「ささ、また歌っとくれ。琴寝ちゃんのコブシの利いた演歌」
- 琴寝
- 「うんっ!」
そうして琴寝は、お年寄りたちの前で歌い出す。
- 十萌
- 「琴ちゃん、本当は演歌をやりたかったのですね……」
*
レッスンの日々は過ぎ、進級に向けて真価の試される一大イベントが近づいてきた。
- 十萌
- 「もうすぐ文化祭ですけど、琴ちゃん、調子はどうですか?」
- 琴寝
- 「ま、そこそこってとこね」
- 十萌
- 「ここだけの話、文化祭でグランプリになれば、金一封が出るらしいですよ」
- 琴寝
- 「金一封!? うちのチビどもにお小遣いあげて、おじいちゃんやおばあちゃんにも……。下僕、何ぼさっと見てんのよ! 特訓を始めるわよ!」
- 光貴
- 「はした金をあくせく求めるとは、まったくもってぶざまだよ」
またしても、上保光貴が現れた。
- 琴寝
- 「ぶざまって、あんたのその顔のこと?」
- 光貴
- 「くっ……! この虫けらどもが! 覚悟しておけ、文化祭では僕の愛する美しきバディ・ファルセットで、完膚なきまでに叩きのめしてやる!」
光貴のバディは、とてつもない能力を持つアンドロイドの美少女だった。
- ファルセット
- 「わたしはファルセットver.1.0、光貴さまに作られた忠実なるアンドロイド。忠実ではありますが、特に光貴さまを愛しているわけではありません」
- 光貴
- 「何っ!?」
- 琴寝
- 「ぷっ、いきなりフラれてやんの」
- 光貴
- 「お〜〜〜の〜〜〜れ〜〜〜っ!」
- 琴寝
- 「文化祭では、思いをこめた失恋ソングでも歌いなさい。じゃあね〜♪」
*
とはいえ、文化祭の直前になると、さすがの琴寝も緊張している様子だ。
琴寝のためにしてあげられることを、今こそする時だ。
- 琴寝
- 「……」
琴寝は目を丸くして、あっけに取られていた。
- 琴寝
- 「ダ、ダイちゃん!? じゃなくて、演歌の大御所・南島大三郎先生! どうしてここに……」
- 大三郎
- 「お前さんの相棒が、何度も何度も、大切な人を勇気づけてやってくれないかって頭を下げに来たのさ。俺ぁ、その侠気に心打たれてね」
- 琴寝
- 「あ、あの……あたし……」
- 大三郎
- 「お前さん、大江戸テレビのノド浪漫大会でグランプリをとった、おチビちゃんだろ?」
- 琴寝
- 「覚えててくれたんですか!? 大三郎先生は、審査員でいらしてて……」
- 大三郎
- 「あれほどの才能は、なかなか忘れるもんじゃあないぜ。己の信じた道を行きな。お前さんにゃ、最高の仲間ってやつがついてる」
- 琴寝
- 「は、はいっ!」
- 十萌
- 「琴ちゃん、もうひとつプレゼントがあるのですよ」
十萌さんが差し出したのは、息を呑むほど美しい着物だった。
- 十萌
- 「演歌を歌う琴ちゃんのために、老人ホームのみなさんに協力してもらって衣装を縫い上げたのです。十萌の一世一代の自信作、名付けて夢胡蝶!」
- 琴寝
- 「十萌……じいちゃん、ばあちゃん……」
- 十萌
- 「文化祭には、その老人ホームのみなさんも招待してるのです。琴ちゃん、ガッツでゴーゴーなのですよ!」
- 琴寝
- 「わかったわ、任せといて!」
そう、海鴎琴寝は我が道を行くのだ。
*
文化祭は琴寝の独壇場だった。
力強い節回しで、堂々たる立ち居振る舞いで、観客を一人残らず魅了していく。
そして——
- 学院長
- 「グランプリは、海鴎琴寝君!」
ホールに大歓声がわき起こる。
表彰を受けるため、夢胡蝶をまとった琴寝と二人してステージの中央に歩いていく。
観客席からは、琴寝の家族や老人ホームのお年寄りたちからも声が飛ぶ。
- 弟&妹
- 「お姉ちゃ〜ん!」
- お年寄りたち
- 「琴寝ちゃ〜ん!」
- 学院長
- 「これぞ日本の心! 心にしみたわい。海鴎君、バディと二人、よくやったな」
- 琴寝
- 「……」
- 学院長
- 「これは副賞の金一封……海鴎君?」
あの琴寝が、ぽろぽろと涙をこぼして泣いている。
小さな女王さまでも、今までやっぱり不安だったのだろう。
怖かったのだろう。
安堵と、そして何より喜びの涙だった。
楽屋に戻っても、琴寝はぎゅっと抱きついたまま泣いていた。
- 琴寝
- 「ありがと……ほんと、ありがとね……」
いつもの「下僕!」じゃないんだ。
からかうと琴寝は泣きながら、
- 琴寝
- 「うっさい、ばーか」
見守る十萌さんが、くすくす笑っていた。
*
数日後、海鴎家でのお祝いパーティーに招待された。
- 弟&妹
- 「お姉ちゃん、おめでとう!」
- 父親
- 「さすがは父ちゃん自慢の娘だ! お前は昔から体が小さかったから、父さんはずっと心配で……だが、もう大丈夫みてえだな」
琴寝がこちらを見て、
- 琴寝
- 「ねえ、良かったの? せっかくのお願いが、あたしんちで家族とお祝いパーティーをすることだなんて……」
- 母親
- 「あらまあ、二人とも良くお似合いね」
- 妹A
- 「お姉ちゃんね、バディさんのこと大好きなんだよ。お家に帰ってくる度に、バディさんのことばっかり、嬉しそうに話すんだもん」
- 妹B
- 「バディさんはいい人で、頼りになって、世界でいちばん素敵な人なんだよね〜」
- 琴寝
- 「ちょ、ちょっと何言って……」
- 弟
- 「ぼくも大きくなったら、バディさんみたいな下僕になりたい!」
- 父親
- 「げ、下僕!?」
- 琴寝
- 「違うのよ。この人は下僕じゃなくて、あたしの大切な……」
海鴎琴寝編・おわり
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