『スタプラ!』キャラクターエピソード
海鴎琴寝 前編
星華(せいか)学院。
世界的に有名な芸能学校であるここでは、芸能部とマネジメント部の生徒同士が「相棒(バディ)」になるのがルール。
だが、相棒はいまだ見つからずにいた。
かつては芸能部で将来を嘱望されていたが、ケガのためにマネジメント部に編入になって以来、夢を見失って腐っていたのだ。
もういい、学院を去ろう。決心して廊下を歩いていると、
「みーっけ♪ むぎゅ〜っ☆」
突然、小さな女の子に抱きつかれた!
- 琴寝
- 「むぅ〜っ。琴寝のこと、置いてっちゃやだよぉ〜!」
周囲がざわつくが、引き剥がそうとしても離れてくれない。
そこに学院長先生が現れた。
- 学院長
- 「海鴎君、廊下の真ん中で何をやっとるのかね」
- 琴寝
- 「あのねあのね、バディさんとお芝居の練習をしてたの。琴寝、すっごく上手になるんだから。楽しみにしててね、パパ♪」
- 学院長
- 「パパ……!?」
- 琴寝
- 「てへへ〜♪」
- 学院長
- 「ま、まあよかろう。二人とも、ようやくパートナーを見つけたのだな。成績が悪くて進級できなければ、そろって退学。力を合わせて困難に立ち向かってゆく覚悟はあるのかね?」
- 琴寝
- 「大丈夫だよ! だってこの人、琴寝の下…ううん、バディさんとして、いっぱいいっぱい頑張ってくれるんだもん!」
とてつもなく危険な何かを感じて引き剥がそうとするが、がっちり掴んで離してくれない。
- 琴寝
- 「ちっ。せっかくあたしが選んであげたんだから、じたばたせずに空気読みなさいよ。あんたも退学したくないんでしょ? うまくいったらお願い聞いてあげてもいいから、ね?」
学院長先生は今のが聞こえていないのか、
- 学院長
- 「わっはっはっ。よろしい、君たち二人をバディとして認める。力を合わせて努力を重ね、必ずや成功してみせたまえ」
- 琴寝
- 「はいっ。よろしくね!……下僕」
それが、海鴎琴寝との出会いだった。
*
三日でへとへとに疲れてしまった。
この海鴎琴寝、普段は思いきり猫をかぶっているが、二人きりになるや人を人と思わずこき使う、小さな女王さまだったのだ。
- 琴寝
- 「下僕、疲れたわ。肩もみなさい」
- 十萌
- 「琴ちゃんに捕まったばっかりに……かわいそうなのです」
春野十萌が、琴寝用に見つくろった衣装を渡してくれる。
十萌さんは何かとみんなの世話を焼いてくれる、学院の事務員見習いだ。
- 琴寝
- 「十萌は余計なこと言わない。下僕、いい? あたしの機嫌を損ねたら、すぐにバディ登録を取り消して、退学にしてやるんだからね」
- 十萌
- 「気に入らないからって、そんなことばかりしてるから、自分が退学寸前になっちゃうんですよ。やれやれです」
*
一週間経つと、へとへとどころかもうダウン寸前だ。
- 十萌
- 「二人とも、お疲れさまなのです。もうすぐ実技の追試がありますし、体調管理には気をつけてくださいね」
- 琴寝
- 「え? 実技の追試?」
- 十萌
- 「もしかして、忘れてたんですか?」
- 琴寝
- 「そ、そんなわけないじゃないの」
- 十萌
- 「じーっ……本当ですか?」
- 琴寝
- 「忘れてたとしても、どってことないじゃない。どうせ試験なんてみんな簡単なんでしょ? 不合格になんかなりっこないわ」
- 光貴
- 「その簡単な試験に落ちたから、追試を受けることになったんじゃないか」
- 琴寝
- 「!」
- 光貴
- 「やあ、負け組諸君」
現れたのは、同じマネジメント部の上保光貴だった。
光貴とはかつて、芸能部で競い合うライバル同士だった。
ライバルと言っても、オーディションの結果を、裕福な実家のお金で買おうとするような男だ。どうしたってこちらに勝てない苛立ちが、いつしか憎しみに変わり、こちらがマネジメント部に移ってからは自分も転籍。毎日のように嘲笑を浴びせてきては、学院から追い出そうとあの手この手を尽くしてくるのだ。
- 光貴
- 「やっと相棒が見つかったと聞いてお祝いに来てやったんだが、こんなチンチクリンの小娘しかバディにできんとは、同じマネジメントコースで学ぶ者として恥ずかしい限りだよ」
と——
琴寝がつかつかと歩いていったかと思うと、光貴の向こうずねを力いっぱい蹴りつけた!
- 光貴
- 「いだっ!」
- 琴寝
- 「あたしの下僕の悪口を言うな! チンチクリンは、あんたの脳みその方でしょうが!」
- 光貴
- 「こここ、こいつ……!」
- 琴寝
- 「お金の力でしか何もできないボンボンのくせに、偉そうにしてんじゃないわよ」
- 光貴
- 「だ、黙れ! お前らなんて、パパの力を使えば簡単に叩きつぶせるんだからな!」
- 琴寝
- 「やれるもんならやってみなさいよ、へっぽこ偽ホスト!」
光貴は言い返せずに涙目になっている。
- 琴寝
- 「ほら下僕、行くわよ。あたしたちの力で、あのバカを見返してやるんだから」
そう言って歩き出すと、集まっていた野次馬たちが道を開ける。
中には拍手している者もいる。
義理と人情、そして、ちっちゃな体にみなぎる侠気(おとこぎ)。
それが海鴎琴寝。
わがままな女王さまだけど、己の信じたものは体を張って守るのだ。
十萌さんは言っていた。
- 十萌
- 「琴ちゃん、大家族のいちばん上のお姉ちゃんなんです。家では文句ひとつ言わずに、妹さんや弟さんたちの面倒を毎日みてあげてるんですよ。でも、ホントは自分だって甘えたいんじゃないでしょうか? それなのに、どう甘えていいかわからないから、あんな感じになっちゃうんだと思うんですよねえ」
無理をしている、ということだろうか?
下僕として尽くすのはともかく、琴寝のために、いったい何をしてあげられるだろう?
海鴎琴寝 後編につづく
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