税負担の軽減策 還付案は直ちに撤回を
消費税率10%時の負担軽減策として、財務省が与党税制協議会に示したマイナンバー利用による還付案は問題だらけの内容だ。消費者に面倒とリスクを押しつけ、負担軽減も不十分である。与党は原点に戻って軽減税率を真剣に検討すべきだ。
財務省案は(1)軽減品目は酒類を除く飲食料品(2)10%の消費税を払う時、マイナンバーカードを店の端末機器にかざし、購入情報をオンラインで国に送る(3)国はその情報に基づき、後日2%分を還付(4)還付額には上限を設ける−−との内容だ。
これでは痛税感は緩和されない。
買い物時にまず10%分を払わなければならず、買い物のたびに増税の重みを感じる。しかも、「1人4000円」といった還付の上限設定だと、負担軽減の実感は乏しい。消費意欲がしぼんで買い控えが広がり、景気への影響が心配になる。将来、税率が一段と引き上げられると、そうした懸念はさらに増す。
そもそもマイナンバーカードの利用には問題が多い。
買い物内容をカードに記録し、国に送るということは「いつ、どれだけ買ったか」を政府に把握されることになる。プライバシーが筒抜けだ、と嫌がる人は少なくないだろうし、その情報が漏れる恐れもある。
カードには、所得税額や年金といった個人情報も記録される。なくしたり、盗まれたりすると大変だが、近所の買い物にも持ち歩くなら不安が常につきまとう。負担を軽くするからリスクは受け入れろという発想は、消費税の納税者である国民をないがしろにしたものだ。
また端末機器は、全国の小売店に残らず設置しなければならないが、容易ではない。自販機はどうするのか。財務省は補助金などを用意する構えだが、消費税率が10%になる2017年4月に間に合うだろうか。
消費税は、増え続ける社会保障費をまかなう財源となる。巨額の財政赤字を考えると、将来の税率引き上げは避けられないだろう。その時、収入の中から生活必需品に支出する割合が高い低所得者ほど負担感は増すだけに、配慮が不可欠なのだ。
ところが、麻生太郎財務相は「複数の税率は面倒くさい」「カードを持って行きたくなければ持って行かないでよい。その分の減税はない」と言い放っている。消費税を国の財源として重視し、広く受け入れてもらう立場である財政・税制の責任者としての自覚がまるでない。
名ばかりの軽減策をめぐって時間を浪費するのはやめるべきだ。財務省の還付案は直ちに撤回し、低所得者対策であり、消費税の定着を図る対策の柱でもある軽減税率の具体化を急ぐのが本筋である。