司法試験漏えい 公正さ保つ仕組み必要
司法試験の公正さと信頼性の根本を揺るがす前代未聞の不祥事だ。
明治大法科大学院教授が、今年の司法試験の出題内容と、解答として論述すべき内容を教え子の受験生に漏らしていたことが分かった。
東京地検特捜部が、国家公務員法(守秘義務)違反容疑で本格的な捜査に乗り出した。
司法試験の問題は、考査委員と呼ばれる裁判官や弁護士、大学教授らから選ばれた専門家100人以上が作成する。教授は考査委員の一人として、自らの専門である憲法の問題作成に関わっていた。
教授は、漏えいを認めているという。当然守るべき守秘義務をなぜ破ったのか。法務省は、動機や原因の究明と併せ、再発防止に早急に取り組むべきだ。
漏えいしたのは、論文式と呼ばれる問題の一部だった。採点に当たっていた考査委員から「情報漏えいがなくては作成が困難な解答内容だ」という意見が出たため、法務省の司法試験委員会が調べ、発覚した。
司法試験を巡っては、2007年にも試験の公平性に疑問を抱かせる事態が起きた。考査委員だった慶応大法科大学院の教授が、試験問題の類似問題を通じ、参考になる判例などを教え子に事前に教えていた。
考査委員には法科大学院の教員も就く。教員は日常的に受験生と接するだけに高い倫理観が求められる。
だが、法科大学院間の生き残り競争が厳しくなる中で、問題作成に携わる教員が、自校の受験生に有利になるような指導をする懸念は残る。考査委員は公表されており、受験生にとっても授業を通じて教員に接近しやすいのは確かだろう。
慶応大法科大学院の事案を受け、法科大学院の教員を問題作成の担当から外すことが検討された。だが、法務省は、法科大学院の教育を試験に反映させる必要があるとして、人数を減らすだけにとどめた。
今回の事案をみれば、個々のモラルだけには頼り切れない。
法科大学院で受験生と接する立場にない法学研究者も少なくないはずだ。法科大学院の教員を問題の作成から完全に外すことを含めて、試験問題の作成や採点の仕組みを法務省は改めて見直す必要がある。近く発足させるワーキングチームで徹底的に議論してもらいたい。
8日の司法試験合格発表では、昨年比40人増の1850人が合格した。難関で知られる司法試験だが、弁護士の就職難などが響き、近年は人気が低迷している。
法科大学院は法曹養成の中核を担う。漏えいによる信頼喪失で、さらに法曹界離れが進まぬよう速やかな対処が必要だ。