安倍総裁再選 無競争信任におごるな
自民党総裁選が告示され、安倍晋三総裁(首相)が無投票で再選された。2018年9月までの3年間、党首として新たな任期を得た。
長期政権をうかがう首相にとって、盤石に見える勝利だ。だが、安全保障関連法案の審議が続く中の総裁選で、対立候補の出馬は封じ込まれた。議論なき信任は決して、政権の基盤を強化したと言えまい。
投票を経ずに総裁が再選されたのは01年の小泉純一郎総裁以来、14年ぶりだ。任期をすべて務めての無投票再選は、任期が2年だった当時の1997年の橋本龍太郎総裁以来という異例さだ。告示を控え、首相はすべての派閥やグループに支持を広げていた。国政選挙で3連勝した実績などが評価されたと言えよう。
だが、野田聖子前総務会長が最終的に出馬を断念した経過は異様だった。野田氏は総裁選が無投票となることに異を唱え、出馬を目指した。ところが、約400人もいる同党国会議員の5%にあたる、推薦人20人すら確保できなかった。
出馬断念の背景には、有形無形の圧力があった。首相を推す陣営は、対立候補の出馬は終盤国会で野党を利する反党行為だと言わんばかりにけん制した。党幹部からは無投票再選を望む発言が相次ぎ、野田氏の推薦人集めには派閥などを通じた締め付けが行われたとされる。
党首選びは本来、党の活性化に欠かせない要素である。首相にとっても悲願とする憲法改正の位置づけなど今後何を目指すかを説明し、基盤を強化する機会だったはずだ。
ところが実際には、終盤国会で党の結束を強調しようと執行部は議論の回避に走り、議員もまた総裁選後の人事を意識して尻込みしてしまった。視野が狭すぎはしないか。
旧来の派閥に代わり、リーダーを育て、政策論争を活性化していくシステムが自民党に構築されていない状況も浮かんだ。小選挙区や政党助成制度の下で確かに派閥の力は弱まった。その一方で、党内の活力はむしろ低下しているようだ。
議論不在は、最近の党の傾向でもある。特定秘密保護法、集団的自衛権の行使を認める憲法解釈の変更、安保関連法案など国の針路に関わる課題で党内の議論は低調だった。
再選された首相がまず直視すべきは、安保関連法案の欠陥が露呈している現実である。成長戦略が行き詰まるアベノミクスの経済政策も含め、政権のあり方が問われている。
首相が政策のひずみを点検し、政策の優先順位を誤らないためにも党との緊張関係や、党内の活発な議論が欠かせない。論戦を封印して得られた信任はもろい。無投票の意味をはき違え、おごってはならない。