戦後70年・視点 償いと和解 独の経験から考える=論説委員・岸俊光
日本の歴史問題を語る時に、たびたび引き合いに出されるのがドイツである。同じ敗戦国でありながら戦後は周辺国と良好な関係をつくり、国際社会からも評価されるのはなぜなのか。
東西に分断され、長く講和条約を結べなかったドイツと単純な比較はできない。それでも、和解の進め方はヒントになる。
安倍晋三首相は先月発表した戦後70年談話において、「戦場の陰で、深く名誉と尊厳を傷つけられた女性」に言及した。同じ日、慰安婦問題などに取り組む市民団体の集会が東京都内で開かれた。そこで講演したドイツの「記憶・責任・未来」財団理事会アドバイザーのウタ・ゲルラントさんに話を聞いた。
「記憶・責任・未来」は、戦時下の強制労働者への補償を目的に、2000年につくられた半官半民の財団である。対象者は旧ソ連・東欧を中心として約167万人に及び、07年までに約44億ユーロが支払われた。
財団設立は、国と企業の共同出資に賛同する社会民主党と緑の党が政権に就いたことが契機になった。被害者がドイツ企業を相手取り、米国で集団訴訟を起こした影響が大きかった。米市場を失いたくないドイツは、今後訴訟が起きないよう米国と政治決着を図ったのである。
ベルリンの「記憶・責任・未来」を07年に訪ねた。その時に感じたのは、元慰安婦への償い事業を行った日本のアジア女性基金との共通性だった。ドイツ側が認めたのは政治的、道義的責任であって法的責任は含まれない。講和条約や2国間条約で解決済みという法の壁を道義によって乗り越えようとした女性基金と似た考えがうかがえる。
日本側にない優れた点もある。ドイツ現代史が専門の佐藤健生・拓殖大教授は財団設立法案が全政党の連名で出されたことや、関係国ごとにつくられた七つの受け皿機関との協力体制を挙げる。女性基金にはドイツが実現できなかった首相の手紙などの長所はあるものの、個人の努力に負う部分が多かった。
ウタさんは「誰もが満足したわけではないが、ドイツが過去とは違うということを分かってもらえた。特によかったのは、相手国の信頼を得て外交関係が好転したことだ」と振り返る。
「記憶・責任・未来」の名称には、記憶と未来をつなぐ責任という意味が込められている。同じく「過去を受け継ぎ、未来へと引き渡す責任がある」と語る安倍談話を具体化するには、元慰安婦への何らかの追加措置が必要ではないか。それには国内外の合意が欠かせないことをドイツの経験は示している。