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【社説】

五輪エンブレム みんなの信認 今度こそ

 今度こそ、皆の信認を得られるよう望みたい。選び直しとなった二〇二〇年東京五輪・パラリンピックの新エンブレム。作品の好き嫌いは割れるにせよ、問われたのは選考過程の公正さ、透明さだ。

 新たに大会公式エンブレムに選ばれたのは、日本の伝統色である藍色の四角形を組み合わせた「組市松紋」。江戸時代の女形の歌舞伎役者、佐野川市松が用いたチェック柄の衣装から広まった「市松模様」をあしらったデザインだ。

 作者のアーティスト野老朝雄(ところあさお)氏は「とても長く時間をかけて作図した。わが子のような作品」と感慨深げに語った。丹精込めた様子が伝わってくる。

 旧エンブレムの白紙撤回から七カ月余り。異例の仕切り直しを経てようやく決まった大会のシンボルマークだが、国民参加や情報公開の在り方、説明責任の果たし方に落ち度はなかったか。

 いわば公共事業の手続きとしてつぶさに検証し、反省材料があれば、大会準備に生かすべきだ。

 振り返ってみよう。

 昨年の旧エンブレムの撤回問題は、世間とデザイン業界の独創性に対する捉え方の食い違いや、なれ合いともいえる不明朗な業界体質を浮き彫りにしたのだった。

 アートディレクター佐野研二郎氏の作品が公式エンブレムとして発表されると、ベルギーの劇場ロゴとの類似性が指摘され、訴訟にまで発展した。ネット空間では、盗用や模倣を疑うさまざまな情報が画像付きで瞬時に飛び交った。

 ネット時代である。世間の情報収集能力は飛躍的に高まり、デザインを見る目は肥えている。とりわけ、商標登録をはじめ知的財産権や著作権については鋭敏だ。

 さらにまた、旧エンブレムの選考過程での不正まで発覚した。ひと握りの有名デザイナーに一次審査への参加を内々に要請し、全員を無条件で通過させるために投票操作が行われていた。

 公募とは名ばかりの背信行為だった。最高水準の競争レベルを維持したいとの思惑があったとされる。選考の密室性やデザイン業界の閉鎖性が非難された。

 旧エンブレムの撤回に伴い、大会組織委員会では一億円余り、東京都では一千万円近い費用が少なくとも無駄になったという。あまりにも高い授業料である。

 今度の審査結果には、いささかの疑念も持たれてはならない。新国立競技場の建設問題を含め、五輪・パラリンピックはみんなの祭典であることを銘記したい。

 

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