中東のシリア情勢打開へ向けた細い希望の光が、危機にさらされている。

 2月末にアサド政権と主要反体制派の間で停戦が発効してから2カ月足らず。シリア北部で衝突が再燃している。

 ロシアからの支援で勢いを増した政府軍が攻勢を強め、空爆も続けているとみられる。停戦は崩壊の瀬戸際にある。

 1千万人を超える市民が住む家を失い、今世紀最大の人道危機といわれる内戦をこれ以上、長引かせてはならない。関係各組織に強く自制を求めたい。

 とりわけアサド政権には国情を安定させ、国内社会の再建を最優先する重い責任がある。停戦期間を反政府勢力への攻撃の機会に利用するような愚行を犯してはならない。

 停戦発効後の3月、国連は和平協議をスイスで始めた。5年余りに及ぶ内戦だけに交渉は難航していたが、戦闘の再燃により事態は一層こじれている。

 反体制派の主要代表団は、和平協議からの一時離脱を決めた。復帰の見通しは立っていない。移行政権づくりなど今後の安定した国家像を探る試みは滞る公算が大きくなっている。

 米欧や反体制派はかねて、アサド大統領の退陣を求めてきたが、大統領側は拒絶したままだ。今月は、反体制派の反対を押して首都などの支配地域で人民議会選挙を強行し、体制を堅持する姿勢を鮮明にした。

 態度を硬化させる政権を説得すべきなのは、その後ろ盾であるロシアのプーチン大統領だ。米国と並ぶ停戦の呼びかけ役として、ロシアは停戦を維持するよう最大限の影響力を行使すべきである。

 ロシアは3月、主力部隊の撤収を表明したものの、依然として作戦を続け、アサド政権を支援しているといわれる。停戦を隠れみのにした政権の勢力拡大を黙認しているとすれば、無責任というほかない。

 過激派組織「イスラム国」(IS)問題など中東情勢の一層の悪化は、ロシアにとっても利益にならない。ウクライナ問題をめぐる国際的な孤立から脱するためにも、ロシアは自国の狭い利害を超えて、シリアの和平づくりに貢献すべきだ。

 米国も、関与がまだ不十分との声が根強い。オバマ大統領はきのう、米軍部隊250人規模のシリアへの増派を発表したが、その効果は未知数だ。

 米欧は今後も国連、アラブ諸国、イランなどとの対話を深めつつ、シリアの長期的な停戦実現と和平協議の進展へ向けて、本腰を入れてほしい。