東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。
世界遺産・ポンペイ展開催中

トップ > 社会 > 紙面から > 4月の記事一覧 > 記事

ここから本文

【社会】

ハンセン病隔離法廷「差別的で違法」 最高裁が謝罪、違憲性は認めず

 ハンセン病患者の裁判を隔離先の療養所などに設けた「特別法廷」で開いていた問題で、最高裁の今崎幸彦事務総長は二十五日、調査報告書を公表し、一律に設置を許可していた誤りを認めた上で「患者の人格と尊厳を傷つけたことを深く反省し、おわびする」と謝罪した。だが、「法の下の平等」や「裁判の公開原則」を定めた憲法に違反していたとは認めず、特別法廷で裁かれたハンセン病患者の個別事件の審理の是非にも言及しなかった。

 最高裁が過去の司法行政の誤りを認めて謝罪するのは極めて異例。

 報告書によると、ハンセン病患者の特別法廷は一九四八〜七二年、十四都府県のハンセン病療養所や刑務所など二十一カ所で九十五件設置された。うち九十四件がハンセン病患者が被告となった刑事裁判。許可率は、結核など他の病気の場合が15%だったが、ハンセン病は99%に達した。

 報告書は「最高裁事務総局は、当事者のハンセン病の病状や伝染の可能性の有無などについて科学的な知見を具体的に検討せず、特別法廷の設置を許可していた」と指摘。二〇〇一年の熊本地裁判決が「隔離の必要性が失われた」と判断した一九六〇年以降の二十七件について、報告書は「合理性を欠く差別的な取り扱いだった疑いが強く、裁判所法に違反していた」と結論づけた。

 憲法の定める裁判の公開原則については、開廷場所の正門などに法廷を開く旨の告示があったことや、療養所入所者らが特別法廷を傍聴した事例が確認できたことを理由に「公開されていなかったとは認定できない」と違憲性を否定した。

◆問題を直視せず

<解説> 最高裁の調査報告書は、ハンセン病患者の特別法廷について「差別的だった」と謝罪したが、憲法に違反したとは明記しなかった。問題を直視しておらず、これでは司法による総括とはいえない。

 二〇〇一年の熊本地裁が「一九六〇年以降の隔離政策は違憲だった」と判断してから、十五年近くが経過している。今回の調査も、元患者らの団体の要請で二〇一四年五月から始まっており、最高裁はようやく重い腰を上げた形だった。

 調査報告書は、特別法廷でどんな審理が行われたかを調査の対象にしなかった。過去の裁判に関し最高裁が何らかの言及をした場合、個別の事件の判決の正当性に疑問符が付き、「裁判官の独立」に抵触する可能性を恐れたからだ。だが、これでは「法の下の平等」に照らし、特別法廷での裁判が公平に行われたか、裁判官らに偏見や差別はなかったのかは闇のままだ。

 最高裁は憲法違反だったと明確に宣言した上で、各事件の裁判の審理の妥当性についても検証すべきだった。それこそが、長年の隔離政策の下、差別や偏見に苦しみ続けた元患者らに対する真の意味での謝罪なのではないか。(清水祐樹)

 <特別法廷> 裁判所法69条2項に基づき、災害で裁判所の庁舎が使えなかったり、被告が病気の場合など、地裁などからの申請を受けて最高裁が必要と認めれば、裁判所外の施設で開かれる法廷。最高裁によると、1948〜90年に設置を求める申請が180件あり、113件が認められた。うち、ハンセン病を理由とする特別法廷は95件設置された。

 

この記事を印刷する

PR情報