海を裂き、大地を砕く伝説の武器の数々
中二病という言葉の出現を待つまでなく昔から人々は、大人が口に出すのがためらわれるくらい恥ずかしい「さいきょうの武器」を考え出してはお話に盛り込んで熱くなっていました。
自分が考えた「さいきょうの武器」で遊ぶのは子供ですが、強い武器には老いも若きも憧れるもんなんでしょうか。
今回は結構前に書いた「神話に登場する武器」の2回目になります。
1. ハルパー(ギリシア神話)
青年神ヘルメスの主武器
ハルパーは刃が鎌のように曲がった剣で、その部分で相手の首や急所を掻き切ります。
神話でこの武器を使ったのは、オリュンポス12神の一人である青年神ヘルメス。
ヘルメスはハルパーを使って巨人のギガンテスやアルゴスを殺しています。ハルパーは相手が神や怪物であても効果があったとされ、おそらく古代ギリシアではポピュラーな武器だったのでしょう。
ヘルメスの他には、英雄ペリクレスが怪物メデューサの首を掻き切るのにハルパーを使っています。
2. フラガラッハ(ケルト神話)
解き放たれると自動的に敵をなぎ倒す剣
フラガラッハはケルト神話に登場する神ルーが持っている多くの武器の一つ。
もともとはマナナン・マクリルという異界の神が持っていたもので、後にルーに託されました。
フラガラッハとはケルト語で「応えるもの」という意味で、所有者であるルーの意思ひとつで動き、「敵を倒せ」と念じると一人でに鞘から解き放たれて敵をなぎ倒して鞘に戻ってくる。
切れ味鋭く、どんな盾でも鎧でも壁でも切り裂くことができる。また、フラガラッハによって切られた者は、絶対にその傷が癒えることはない。
オートメーション機能という発想が古代からあったのがなんか親しみが湧きますね。
3. 炎のつるぎ(聖書)
人間からエデンの園を守る神の武器
「炎のつるぎ」はRPGにも登場する武器ですが、実は人間ごときが扱える代物ではありません。創世記第3章24節に記述があります。
神は人を追い出し、エデンの園の東に、ケルビムと、回る炎のつるぎを置いて、命の木の道を守らせられた。
エデンの園からアダムとエヴァを追い出した神は、再び人間が入ってこないように炎のつるぎを置いてエデンを守らせたとされています。ということは炎のつるぎは、自分の意思で動くのでしょうか。上の絵では天使が炎のつるぎを持っている様子が描かれています。いずれにせよ、神の持ち物なんでしょう。
ギリシア正教の祈祷書の一つ「三歌斎經」では、イエスの殉死により人間の罪は許され、炎のつるぎは取り除かれたため人間は再びエデンの園に入ることができるのである、とされています。
4. エクスカリバー(イギリス)
ブリテン島の王を象徴する、アーサー王が持った魔法の剣
エクスカリバーは「アーサー王伝説」に登場する魔法の剣で、アーサー王が持ったとされる剣です。
アーサー王がエクスカリバーを手に入れた逸話は2つあります。
1つ目が「石にささった剣をアーサー王が抜き取り手にした」というので、2つめが「湖の乙女によって授けられた」とされるもの。
「王の資格がある者のみが引き抜くことができる」というのはお話として面白いし、次のストーリーに繋げやすいから好まれたんでしょう。アニメや漫画でもよくこの描写は現れます。
Photo by Eduardo Otubo
↓エクスカリバーの起源についてはこちらのページが非常に詳しいです。
5. シャムシール・エ・ゾモロドネガル(ペルシア神話)
アルスラーン王子が持つ万能な剣
シャムシール・エ・ゾモロドネガルとはペルシア語で「エメラルドを散りばめた剣」という意味で、イランの古代叙事詩「アミール・アルスラーン」の主人公アルスラーン王子が持っていたもの。日本ではアルスラーン戦記のほうが有名ですね。
もともとはイスラエルのソロモン王が所有していた名剣で、その後Fulad-zerehという名前の角の生えた魔法使いの母親が大事に保管していました。母は息子を大切にするあまりに、伝説の武器以外では息子を傷つけられないようにし、その唯一息子を殺せるシャムシール・エ・ゾモロドネガルを後生大事に保管していた。
シャムシール・エ・ゾモロドネガルで傷ついた傷は決して治ることはなく、唯一Fulad-zerehの脳みそからできたポーションを使えば治療することができるのだそうです。
6. トゥアン・ティエン(ベトナム)
Photo by Nguyễn Thanh Quang
ベトナム独立の英雄レ・ロイが持った魔法の剣
トゥアン・ティエンは黎朝越南の創始者・黎利(レ・ロイ)が持ったとされる伝説の剣。
175年の間ベトナムを支配した陳朝が胡朝によって滅ぼされたため、1406年に明王朝は陳朝の復興を掲げてベトナムに侵攻し支配を強めました(1407〜1427年)。これに対し1418年、地方の一首長であったレ・ロイが挙兵し明王朝打倒の戦いを開始しました。
土地の神様は彼を祝し、自分の持っていた剣トゥアン・ティエン(「天の意志」という意味)を授けた。しかしその剣はポッキリと折れており、しかも一部が欠けていた。
数年後、レ・ロイの軍勢でレ・ティエンという漁師出身の男が抜群の働きをみせて出世していた。ある時将軍がレ・ティエンの家を訪れたところ、何やら金属の塊のようなものがあった。これは彼が漁師時代に池の底から引き上げたものだという。不思議な光を帯びた金属を見て将軍はひらめき、レ・ロイの持つトゥアン・ティエンにはめてみるとピッタリだった!
完全となったトゥアン・ティエンを持ったレ・ロイは魔法の力でムキムキになり、十人力のパワーを手にして勝ち続け、とうとう明の軍勢をベトナムから追い出してしまったのでした。
7. デュランダル(フランス)
Work by Patrick Clenet
切れ味と頑丈さを兼ね備えたロランの剣
デュランダルはフランスの叙事詩「ロランの歌」に登場する伝説の武器で、主人公ロランが持つとされます。
もともとデュランダルは天使がシャルル王に授けたものでしたが、ロランはシャルル王から賜ったもので、切れ味が大変鋭いのはもちろん頑丈さも素晴らしい。
ロンスヴァルの谷でピンチに陥ったロラン。デュランダルが敵の手に渡ることを恐れて岩でたたき割ろうとしたところ、岩が砕けてしまったそうです。
フランス南部の町ロカマドゥールには伝説があり、ロランがこの土地に逃れてきたときに、デュランダルを隠そうとして壁に投げつけたところ岩を引き裂いて途中で止まった、とのこと。
上記写真のように現在でもデュランダルを見ることができるそうですが、どうやらレプリカのようです。
8. パーシュパタアストラ(インド神話)
この世の全てを滅ぼすことが可能な史上最強の武器
パーシュパタアストラは別名ブラフマシラス(梵頭)ともいい、ヒンドゥー神話の神シヴァが保有する武器。
この武器は決まった形状がなく、シヴァの目や言葉、意志といった形で力が発露する場合もあるし、弓といった物理的な形をしている場合もあります。
なぜこれが最強であるかというと、いったんパーシュパタアストラが力を発揮すると、「この世の生きとし生けるものと、ありとあらゆる創造物は消えて無くなる」。シヴァは宇宙を滅ぼす際にこの武器を用いるのだそうです。
叙事詩マハーバーラタの登場人物の一人アルジュナは、シヴァの信頼を得てパーシュパタアストラを借りることができた。パーンダヴァ家の三男であるアルジュナは、王国を乗っ取った憎きカウラヴァ家を打倒すべく、パーシュパタアストラをはじめとした神の武器を使って戦いを進め、ついに宿敵である異父兄カルナを倒すことができたのでした。
まとめ
神話って本当に面白いですね。
我々が普段馴染み深い漫画やゲームにもよく現れるストーリーが満載で、「あ、あの話はここが出元だったのか!」と分かるのも楽しいものです。大人の知的快楽といったとこでしょうか。
それにしても「絶対壊れない」「神が授けた」「その剣で切ったら治癒できない」 など、特定の文化を超えた普遍的な文脈が見られるのがとても興味深いです。
人間が武器に対して期待した思いや事柄が透けて見えてきます。
参考サイト
"25 Legendary Mythical Weapons Which Shaped History" list25
Thuận Thiên (sword) - Wikipedia, the free encyclopedia
Manannán mac Lir - Wikipedia, the free encyclopedia
Durendal - Wikipedia, the free encyclopedia
・この本は分かりやすそうです(読んだことないですが)