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安保転換を問う 審議大詰めへ 成立断念して出直しを

 安全保障関連法案の参院審議が、国会会期末に向けて、ヤマ場を迎えている。安倍政権は、中旬にも法案の採決に踏み切ろうとしている。

     そんな中、全国各地で反対集会が開かれ、先月30日には国会周辺に主催者発表で約12万人が詰めかけた。

     集まったのは若者、母親、戦争体験者をはじめ、幅広い層の市民だ。

     多くの市民が自発的に参加したのは、政権が言うように法案の内容を誤解しているからではない。

    広がる民意との乖離

     各種世論調査では、国民の過半数が法案は憲法違反と考え、6割が今国会での成立に反対している。民意は明確に示されているのに、国民の声が国会や政府に届かない。そんなもどかしさ、怒り、不安をぶつけるように、参加者は声を上げた。

     永田町・霞が関を中心に形成されている日本の政治システムは、このところ、難しい政治課題にうまく対応できていない。安保関連法案だけではない。沖縄県・米軍普天間飛行場の辺野古移設や、鹿児島県・川内原発の再稼働問題も、民意との乖離(かいり)が指摘されながら、政府はそれを省みようとしない。

     参院審議のヤマ場を迎え、政権はどうすべきか。かけ離れてしまった民意との間に、橋をかける努力を地道にすることしかない。今国会で法案を成立させるべきではない。

     この法案は、米国の力の低下と中国の台頭に対応するため、日米同盟の抑止力を強化するのが目的だ。

     安倍晋三首相は、法案によって「抑止力はさらに高まり、日本が攻撃を受ける可能性はいっそうなくなっていく」という。だが、こうした説明は、政府が考える法案のメリットのみを強調したもので、リスクを語ろうとしておらず、一面的過ぎる。

     法案は、日米の軍事一体化をさらに進め、世界中で自衛隊が米軍や他国軍の戦いを支援し、いざとなったら他国を守るため集団的自衛権を行使して戦闘に参加することを可能にするものだ。

     安倍政権は、そんな戦後の安全保障政策の大転換を、憲法9条の改正手続きに訴えることなく、憲法解釈変更と関連法案の成立によって、実現しようとしている。

     これは、行政府に許される裁量の範囲を超えている。憲法は権力を縛るものだという立憲主義の理念から逸脱している。

     7月末に参院で審議が始まってから1カ月余り。違憲法案の疑いは払拭(ふっしょく)されていない。何のために集団的自衛権の行使が必要かという根拠も、ますます希薄になっている。

     首相が、集団的自衛権行使の必要性を説明するため、具体例として挙げてきた二つのケースについてさえ、政府の説明が揺らいでいる。

     「中東・ホルムズ海峡での機雷掃海」の事例は、遠い中東で、海峡が機雷封鎖され原油輸入が滞るという経済的理由から集団的自衛権を行使することに、国民の理解がない。

     そのうえ、イランが欧米などと核問題の包括的解決策で合意したことにより、機雷を敷設して海峡を封鎖する現実味はさらに乏しくなった。

    与野党の幅広い合意で

     「邦人輸送中の米艦防護」の事例は、首相が日本人の母子が米国の軍艦に乗って避難するパネルを使い「日本人の命を守るため、自衛隊が米国の船を守る」と強調したものだ。

     だが、中谷元防衛相は、参院の特別委員会で「邦人が乗っているかいないかは(行使の条件として)絶対的なものではない」と語った。日本人を守るための集団的自衛権の行使という説明が崩れてきている。

     また、米軍など他国軍への後方支援では、自衛隊は弾薬の輸送や提供ができる。参院での審議を通じて、核兵器、ミサイル、劣化ウラン弾、クラスター爆弾なども「弾薬」にあたり、法文上は、輸送も提供もできるという、無限定ぶりが浮き彫りになっている。

     焦りからか、政権側の問題発言が繰り返されている。礒崎陽輔首相補佐官は「法的安定性は関係ない」と語った。首相は野党の質問に「まあいいじゃん、そういうことは」とやじを飛ばした。

     法案の内容以前に、政権側には、議論により国民の理解を深めようという基本的な姿勢が欠けている。

     自衛隊の活動は、国民の理解と与野党の幅広い合意のうえに成り立ってこそ、安定したものになる。国民の大半が十分に納得し、主要野党の賛同を得られない限り、自衛隊の活動を拡大する法案を成立させるべきではない。国民の後押しがないまま、自衛官を命の危険がある海外での活動に送り出してはならない。

     安倍政権は法案成立を断念すべきだ。そのうえで、まず与野党は、安全保障環境の変化を踏まえて、日本のあるべき国家像についての共通認識を持つ必要がある。その土台のうえに、日本が東シナ海、南シナ海、中東などで、それぞれどう関わっていくべきかを徹底的に議論し直すよう求める。 

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