概算要求 水膨れは認められない
2016年度予算の各省庁の概算要求総額は過去最大の102兆円台となった。第2次安倍晋三政権が発足してから3年連続で最大を更新し、要求額は膨らむばかりだ。
政府は年末の予算編成に向けて歳出を絞り込むとしているが、来年の参院選をにらんだ与党の増額圧力は強い。20年度までの財政健全化計画の初年度であり、水膨れのままにしてはいけない。
15年度当初予算比で伸び率が10%超と大きかったのは、公共事業を抱える国土交通省や農林水産省などだ。いずれも「地方創生」や「国土強靱(きょうじん)化」を旗印にしている。
国交省は公共事業費を16%増の6兆円要求した。防災に重点を置いてはいるが、従来型の道路整備なども目立つ。
農水省も農業農村整備事業の関連予算を22%増の3372億円要求した。民主党政権で大幅削減され、自民党内で復活要望が強かった。
しかし、公共事業は一時的な景気刺激に終わるケースも多く、持続的な地域活性化につながるか疑問だ。
4兆円規模の特別枠も各省庁の「草刈り場」と化した。本来は成長戦略に沿った政策に限定し、重点配分する狙いだ。しかし、国交省の「道路ネットワークによる地域・拠点の連携確保」など、ばらまきになりかねない事業がまぎれこんだ。
一般会計の約3割を占める社会保障費は、厚生労働省が約6700億円の増額を求めた。健全化計画は「18年度までの3年間で計1・5兆円に抑制」を目安にしているが、自民党には反発の声が根強い。
だが、健全化計画は、薬価の毎年改定など抜本的な歳出抑制策には踏み込んでいない。その計画すら守れなければ、どうするのか。
防衛省の要求額も5兆911億円と過去最大になった。安全保障に力を注ぐ政権の意向を反映したものだが、防衛費は15年度当初予算まで3年連続で増加している。聖域化させてよいのだろうか。
政権は「経済再生なくして財政健全化なし」を掲げ、健全化は経済成長による税収増頼みだ。今回の概算要求基準でも歳出上限を示さず、肥大化を招いた。
しかし、4〜6月期の実質成長率はマイナスに陥り、成長頼みの危うさが浮き彫りになった。それだけに無駄を省いた効率的な予算が必要だ。
財政健全化のため、国民は消費増税を受け入れた。家計に負担を求め、増えた税収に依存して財政規律が緩んでしまっては本末転倒だ。
新国立競技場の建設費問題に象徴されるように国費の使途に対する国民の視線は厳しい。首相は歳出抑制の徹底に指導力を発揮すべきだ。