震災と企業 求められる役割は重い
熊本地震は、企業の生産や流通にも影響を与えており、それを最小限にとどめる対応が各企業で続いている。今後はこうした経済活動の面だけでなく、支援や雇用確保などでも大きな役割が求められる。
熊本県をはじめ九州中部は、自動車や半導体など電機関連の工場が集積する。このため、地震発生で生産停止の影響が全国に広がった。
トヨタ自動車は国内15工場の操業を停止した。ドア部品などを供給するアイシン精機の子会社工場が被災したためだ。アイシンは海外工場を含めた代替生産を急ぎ、トヨタは25日から11工場の順次再開を決めた。
一方、ホンダは二輪生産拠点の熊本製作所の復旧が進まず、早くて大型連休明けの再開だ。
エアコンなどに使う半導体を手がける三菱電機の工場は連休明けに再開するが、ソニーのスマートフォン向けの画像センサー工場はめどが立たない。ビールや清涼飲料などを生産するサントリーの工場も設備点検に時間がかかっている。
大きな打撃を受けた東日本大震災の教訓で、企業は工場の耐震化をはじめ、部品在庫の積み増しや分散発注を進めてきた。こうした対策の成果がどうだったかの検証と、新たな課題の洗いだしが必要だろう。
ただし、全面的に生産体制を再検討し、被災地の取引先や下請けとの関係も見直せば「二重のダメージ」を与える。住民の生活再建のためにも、地元企業との長期に安定的な関係を重視してもらいたい。
来春入社予定の就職活動の時期と重なり、被災地の大学生らに不安が走った。経団連は柔軟な対応を各企業に求めている。
いくつかの企業が、九州の学生を対象に企業説明会などの延期を決め、被災地に実家があるなどの事情がある学生は、6月以降の選考を検討する企業もある。公平・公正な採用機会を確保するため、できる限りの配慮をしてほしい。
企業には被災地支援の役割も期待される。吉野家は熊本県益城町の避難所で牛丼約1000食、壱番屋も熊本市内で約4000食のカレーライスを提供した。支援の手法はいろいろある。それぞれの経営資源を生かした知恵と対応が求められる。
東日本大震災後、富士通総研が一般市民を対象に企業の役割について聞いた。「企業にどんな貢献を期待するか」との問いには、被災地の商品の流通・販路開拓支援▽雇用の受け入れ▽支援物資・自社製品の提供▽被災地の既存産業復興の支援−−などが上位を占めた。
地震の影響は長く続く。企業には目先にとらわれない、長期的な視点に立った取り組みが欠かせない。