アニメは原作通りじゃなくていい
加藤 ライトノベルだと、本だけじゃなくてアニメ化やコミカライズも多いですよね。そういったメディアミックスには、三木さんはどういう関わりをするんですか?
三木 新人編集者のころは、あくまで本のプロモーションの一環として考えていました。ですが、いざアニメを手伝いはじめたところ、アニメを作ってる人たちがすごく真摯で真面目で、そしてとても「いい人たち」だったんです。この人たちが携わっているアニメプロジェクトなら、絶対に成功させたいなと。
加藤 へえ、いいですねえ。
三木 あと、これは結果論ですが、アニメプロジェクトが成功すると、それが原作サイドにもしっかりとフィードバックされるんです。
加藤 というと?
三木 アニメが成功してパッケージ(DVD)が売れると、2期3期とTVアニメが続いていくし、それによって本がもっと売れていく。つまり、本を売ることが仕事の編集者としては、アニメも成功させたほうが結果的に本が売れるんです。それならアニメにも全力を出すべきだ、と思うようになりました。
加藤 なるほど。アニメって、どれだけ人気があってもパッケージが売れないと成功とは言えないんですよね。
三木 委員会方式(※)をとっている深夜アニメはそうですね。制作費がそれなりにかかるので、パッケージで回収するモデルなんです。
※複数の会社に対し出資を募り、資金リスクを分散し、利益が出た場合はこれを出資比率に準じて分配する方式。
加藤 パッケージを売るのにいい方法論とかってありますか?
三木 それがわかれば僕も苦労をしないんですが……(笑)。でも、原作がある作品で言えば、原作をどういう層が好きで、その人たちがどういうアニメ化を望んでいるか、ということはすごく考えます。
加藤 なるほど。原作ファンの好みに沿ったアニメ化の方向性か。
三木 やはり一番はじめのファンを大事にすることを肝に考えています。なかなかできることではないので、精進の毎日なのですが。
加藤 よく言われる「原作通りにすべきだ」という意見はどう思いますか?
三木 僕は必ずしもそうすべきとは思いません。小説には小説の、アニメにはアニメの演出方法があると思いますから。ただ、原作ファンにとっての「家訓」のような、「絶対に押さえておいてほしいポイント」というものは存在します。そこをきちんと紐解いていく向き合い方ができているかどうかが重要なのではないかと思っています。
アニメ調の絵に偏見がなくなってきている
加藤 アニメは絵柄も重要ですよね。基本的にはなるべく原作に似せたほうがいいんでしょうか?
三木 そうですね。その成功例で言うと、『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』(電撃文庫)は原作のイラストを描いているかんざきひろさんの本業がアニメーターさんだったんです。アニメ化が決まったときは、どんなものよりも最優先に、かんざきひろさんのスケジュールをおさえて、かんざきさんにもアニメに参加していただいて。キャラクターデザインにも作画にも入ってもらいました。
加藤 それはいいですよね。原作のイラストのキャラがそのまま動くというのは、ファンにとってはたまらないわけで。ちょっと話はそれますが、キャラクターイラストを使う本ってラノベ以外にも増えていませんか?
三木 そうですね、中身は大人向けなのに装丁はキャラクターイラストになっている、といった本も増えてきたように思います。昔よりも、「アニメ調の絵だから買うのが恥ずかしい」と思わなくなってきているんだろうな、と感じています。みんないい意味で偏見を持たなくなっていて、ありがたいなあと思うかぎりです。
加藤 萌えはこの何年かでだいぶ普及しましたよね。
三木 キャラクターイラストを使うと、ビジネス的には二次展開しやすいんですよね。いい意味でキャラクター像が固定されて、コミック化とかすごくやりやすいと思います。
上司の本をごみ箱に捨てる部下がいい
加藤 独立の話も伺わせてください。この4月に、出版社を辞めて、新会社「ストレートエッジ」を設立されたわけですが、三木さんの作家との付き合い方をもっと前に進めていくためにそういうやりかたを選ばれたんですか?
三木 そうですね。会社員が向いてなかったというのもあるんですが(笑)、もっと作品作りにリソースを割ける環境でやってみたくなったんですよね。
加藤 なるほど、それはよくわかります。
三木 そういう意味では、むしろ加藤さんのほうが先達であって、苦難を乗り越えられてきたんだと思うんです。ですから、僕になにかアドバイスをください(笑)!
加藤 いや、ぼくもまだ新米経営者なのでえらそうなことはなにも言えないんですが、クリエイティブと経営の両立って、やればやるほど、ほんとうに難しいなと思います。たぶんこれ、今の時代のあらゆる会社の課題だと思うんですが。ものづくりって、やはりアートの部分がありますよね。でも会社でやるとなると、再現性が必要だし、属人的なことだけだとスケールしない。そこうまく両立させるのは本当に難しいですよね。
三木 たしかにそうですよね。僕の場合を言うと、メディアワークスの編集部時代から、ずっと上司に恵まれていまして、最初から好き勝手やれたんです。なので、部下や同僚とも束縛したくなくて、お互いに好きにやって、報告し合おうぜ、勝負だ!みたいな感じがいいなと思っているのですが、なかなか結果が出てないときもあったんですよね。そういったときはいろいろ指導をすることがあったのですが、ただ、それは部下や同僚に「三木のやりかた」を押しつけているかたちになるし、僕はみんなそれぞれ独自のメソッドを開発してこそ編集者だと思っているので、サラリーマン時代も、今の立場でもそれが永遠のテーマですね。
加藤 難しいですよね。じゃあ答えはまだ……。
三木 全然出てないですね。難しいです。
加藤 でも、この本の内容はひとつの答えになるかもしれないですね。
三木 僕としては、むしろ「こんな本あてにならん」と言ってごみ箱に捨てるような編集者のほうが、絶対に伸びると思います。だって、僕が別の編集者だったら絶対こんな本読みたくないですもん。「俺のほうがもっと本を売ってやる!」と考えるから(笑)。
加藤 では、三木さんが考える、理想の編集者とは?
三木 かなり語弊があるかもしれませんが……「常識のあるサイコパス」。
加藤 ああ~なるほど、つまり、頭がおかしいけど仕事はちゃんとやる。
三木 そうです(笑)。
加藤 たしかに、一番優れた編集者かもしれません。
三木 でもあんまりいないですよね。
加藤 そう思います。話しをそろそろまとめますが(笑)、この本はメディア関係者にとってすごく参考になることがいっぱいあるのは間違いないし、あとはサラリーマンもみんな参考になる。結局、お客さんのこと考えて企画を考えて、みんなで協力して作っていくっていうのは、どんな仕事にしたって一緒ですよね。
三木 そうだと思います。
加藤 三木さんがやっていること全部はできる気がしないけど、部分部分でも真似ができればいいんじゃないかなっていうのをすごく思いました。
今後の活躍も楽しみにしております。本日はありがとうございました。
三木 こちらこそありがとうございました。
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