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ホンダ苦節15年 アシモの技術生かした歩行支援ロボ

2016/4/25 6:30
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 65歳以上の高齢者が人口全体の3割近くを占める日本で介護向けロボットの需要が高まる。ホンダは1999年から、リハビリなどの歩行訓練を補助する「Honda歩行アシスト」を研究し、昨年に国際安全規格の認証を取得した。15年間で重さを10分の1にするなど苦労が実った。「ASIMO(アシモ)」だけではない。ホンダのロボットが1つ普及期を迎えた。

■椅子に座ったままでも1分間で装着可能

歩行した後、タブレット端末ですぐに股関節の角度や歩幅などのデータを確認できる(大分市、大分東部病院)
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歩行した後、タブレット端末ですぐに股関節の角度や歩幅などのデータを確認できる(大分市、大分東部病院)

 「前は引きずっていたけど、足を上げるのが楽になった」。昨年11月、回復期のリハビリテーション・ケアセンターがある大分東部病院(大分市)の通路で、ホンダの歩行アシストを付けた60代男性が約40メートルを歩いて笑顔を見せた。仕事場で脳血管障害で倒れて体の左側にまひが残り、リハビリを続けていた。

 Honda歩行アシストはセンサーで個人の歩き方に合わせてサポートする。腰と両方の太ももの計3カ所にバックルを付け、椅子に座ったままでも約1分で簡単に装着できる。

 歩行した後に看護師とタブレット端末で、歩幅や歩行数などの機能の回復ぶりをグラフや数値で確認できる。同病院を運営する社会医療法人敬和会の森照明統括院長は「患者がリアルタイムでデータをみて回復を実感することで効果が高まる」とみる。

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 森氏が以前、勤務していた湯布院厚生年金病院(現湯布院病院)ではホンダの歩行アシストの効果を裏付けるデータがある。2011年6月から12年8月まで、脳血管障害の患者20人が1日20分、週5回、歩行アシストを付けてリハビリを実施したところ、歩行スピードが毎秒65センチから95センチと46%向上した。歩行アシストがないリハビリの場合の向上率は13%にとどまり、歩行訓練機器の一定の効果が見込まれている。

 「Honda歩行アシスト」は15年10月に生活支援ロボットの国際安全規格「ISO13482」の認証を取得した。11月から法人向けにリース販売を始め、3年間のリースの場合は月額4万5千円で、初年度に450台の販売を計画する。すでに全国70カ所以上の医療機関や介護施設が計170台以上を導入し、約130台の商談に入っているという。

 歩行アシストの研究を始めたのは1999年。日本の65歳以上の人口比率が欧州を追い越す時期だった。歩く機会が減ると生活の範囲が狭くなり、自立した生活が難しくなる。一方で高齢者が歩行機能を維持したり、高めたりできれば「正のスパイラルで、行動範囲が広がって元気な高齢者が増える」(ホンダの開発責任者の伊藤寿弘主任技師)との考えだ。

 実用化への最大の壁は重さだった。99年の試作品は外部の電源を利用しても16キログラム。2000年に開発したバッテリー内蔵型の1号機は32キログラムで「とても気軽に着用できるリハビリ機器ではなかった」(伊藤主任技師)という。約15年間かけて内蔵モーターやバッテリーの性能を高めて小さくし、10分の1以下の2.7キログラムまで軽くした。1回の充電で約60分稼働する。

■ASIMOで培った人の歩行研究の理論生かす

計測結果がすぐに分かり、リハビリの効果を実感できる
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計測結果がすぐに分かり、リハビリの効果を実感できる

 小型・軽量化を追求しながら設計を見直し、現在はバッテリーと制御コンピュータを内蔵した「腰フレーム」、モーター、太ももに付ける「大腿フレーム」の3つの部品という構成にたどり着いた。腰の横にある角度センサーが歩行時の股関節の動きを計測して、歩行のズレの量を計算する。個人個人の最適な歩行のタイミングに合わせて、大腿フレームを通じて力を伝えて足を曲げたり、前に出したりする動きを支える。

 技術が向上してもなおリース販売までの道のりは遠かった。ホンダの伊藤主任技師は「技術者は評価ができない」と効果の検証に苦労した経緯を振り返る。10年から京都大学との共同研究を始めて、13年6月からは全国約50の病院や福祉施設に計100台を配布した。医師や患者に利用してもらい、「装着しにくい」「効果を実感しづらい」などの声を受け止めて、安全性や装着のしやすさを追求。「横断歩道を時間内に渡りたい」といった患者のニーズを満たすための訓練機能の試行錯誤を繰り返した。

約1分間で装着が可能
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約1分間で装着が可能

 訓練モードは3種類を開発。装着者の歩行パターンに合わせて、左右の足の動きをサポートする「追従モード」、左右の足の動きのタイミングが対称になるように誘導する「対称モード」、振り子のように効率の良い歩行動作を獲得する「ステップモード」だ。患者はその場でタブレット端末やパソコンで、歩行時の可動範囲や歩行速度のデータを見ることができ、回復を実感しやすい。

 まひのある人は歩き方を忘れてしまうが、伊藤主任技師は「正しい腰の使い方や足の出し方を学ぶことで、少しでも要介護者を減らしたい」と願う。開発にはヒト型ロボット「ASIMO」で培った人の歩行研究の理論も生かした。

 医療機器に電磁波などで影響を与えず、ぶつかってもけがをしないような構造にしているなど、きめ細かい性能・設計も評価され、デンマークなど海外の医療機関からも問い合わせがある。今後は欧米での医療機器の認証を得ることも検討しているという。世界の高齢社会の課題を解決するためのロボットとしての普及を見据える。

(企業報道部 工藤正晃)


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