メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

木村栄文さんというディレクターが福岡の…

 木村栄文(きむらひでふみ)さんというディレクターが福岡のRKB毎日放送にいた。手がけたドキュメンタリーの中に水俣病をテーマにした1970年放送の「苦海浄土(くがいじょうど)」がある。作家、石牟礼道子(いしむれみちこ)さんの作品が基になっている▲女優の北林谷栄(きたばやしたにえ)さんが盲目の旅芸人となって出てくる。案内役として患者や家族を訪ね歩く。水俣病の公式確認から5月で60年になるのを前に映像を見返した▲こんな場面がある。水俣病患者が入れられた精神科病院の運動会に旅芸人が紛れ込む設定だ。50代の女性は発病を理由に離縁されたという。元気なころは夫婦で漁に出てたくさん魚を取った。それを懐かしそうに誇らしく振り返る。夫への恨み言はない。病気さえ回復すれば働いて一人食べていくことくらいできるのだと言う▲子供の患者と暮らすおばあさんの家にも旅芸人は来た。その子の世話で大変なのに、歌も踊りもできない旅芸人を励ますように自分が代わりに歌い踊り始める。不条理に耐えながらも人を思いやって生きようとする人たちの姿が心に刺さる▲子供だった患者も年を重ね老いていく。NPO法人「水俣フォーラム」の冊子に石牟礼さんが談話を寄せている。「お生まれになってから一言も言えない方々がいらっしゃいます。(略)それがどのような日々であったか。その年月をどのようなお心で過ごしてこられたことか」▲女優の北林さんも制作者の木村さんも鬼籍に入った。おそらくあの精神科病院の女性も、おばあさんも。だが水俣病の問題はなお続く。映像の中の旅芸人は苦海の深い悲しみを背負い、今も終わりのない旅をしているように思える。

    あわせて読みたい

    毎日新聞のアカウント

    話題の記事

    アクセスランキング

    毎時01分更新

    1. 北海道補選 自民、参院選に弾み 野党共闘の出足くじく
    2. 衆院補選 北海道5区 自民・和田氏の当選確実
    3. 衆院補選 「安保語ってほしかった」北海道5区
    4. 牧太郎の青い空白い雲 /561 ゲス不倫議員騒動で分かった「政界はヤクザ顔負け」
    5. 熊本地震 「半個室」で安心 簡易間仕切り設置

    編集部のオススメ記事

    のマークについて

    毎日新聞社は、東京2020大会のオフィシャルパートナーです

    [PR]