認知症や知的障害などで判断能力が不十分な人に代わり、財産の管理や介護サービスの契約などをする。その成年後見制度の利用を広げるための促進法が議員立法で成立した。

 認知症の高齢者が462万人とされるのに対し、制度の利用者は約18万人にとどまる。仕組みを周知し、普及に向けた施策を進めるのが法の狙いだ。

 だが、利用が低調なのには理由があるはずだ。促進の旗を振る前に、まずは制度にどんな問題点や課題があるかを総点検し、利用者本位の仕組みへと見直すことに取り組むべきだ。

 法律には、後見人による不正を防ぐ対策や、後見人の業務を手術や治療内容への同意に広げることなどを検討し、3年以内に必要な法整備をすることが盛り込まれた。また、家族や親族よりも第三者による後見が増えている状況を踏まえ、一般市民の中からの後見人の育成を推進する方針を掲げた。

 後見人による財産の着服は後を絶たない。特に弁護士などの専門職による不正は昨年、過去最多を更新した。制度への信頼にかかわる問題であり、監督体制の強化は最優先の課題だ。

 一方、後見人の業務を医療行為の同意に広げることには疑問や懸念も出ている。延命治療の中止といった重い判断を迫られれば、後見人の心理的な負担も大きい。

 医療現場では、本人が意識不明に陥るなど、意思の確認や同意を得るのが難しいケースは他にもある。そうした場合の対応は、広く医療の問題として議論するべきではないか。

 人材確保の切り札とされる市民後見人にも課題がある。一定の研修を受けるとはいえ、弁護士や司法書士ほどの専門性はない。利用者と後見人双方の不安を解消するには、市民後見人への専門的、組織的な支援体制を整えることが不可欠だ。

 また、利用者への虐待が疑われる場合などは専門職の後見人に頼らざるを得ないが、最低でも月2万~3万円の費用がかかり、資力のない人は利用できないのが実情だ。費用の補助を拡充することも必要だろう。

 今の成年後見制度が利用者の意思を尊重した仕組みになっているか、という根本的な疑問も根強い。判断能力が不十分とされる人でも、適切なサポートがあれば自ら決められる場合もある。むしろ成年後見制度の利用はできるだけ限定し、意思決定を助ける仕組みを充実させるべきだとの指摘もある。

 利用促進にとどまらない、幅広い議論を求めたい。