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テキスト版

シリーズ・視覚障害者向けラジオ放送50年(2)これからの50年

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(2014年11月9日(日))

出演:大河内 直之さん(内閣府障害者政策委員会委員。東京大学先端科学技術研究センター特任研究員)
   田畑 美智子さん(世界盲人連合アジア太平洋地域協議会、WBUAP会長)
   南谷 和範さん(独立行政法人 大学入試センター職員)
司会:石井 則子 青木 裕子
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青木:
視覚障害者ナビラジオ、青木裕子です。今月4回にわたってシリーズでお送りしている、視覚障害者向けラジオ放送50年の2回目の今日は、これからの50年と題してこの番組について語り合います。
NHKが視覚障害者向ラジオ「盲人の時間」の放送を始めたのは、1964年、今年でちょうど50年、放送を続けてきたことになります。先週はこの50年を振り返りました。今日は、これから放送に何を期待するか、視覚障害者として、日本で世界で活躍している皆さんとともに考えていきます。集まっていただいた皆さんは50歳以下、つまり生まれた時からこの視覚障害者向けラジオ番組があった世代です。今年内閣府の障害者政策委員会の委員にも任命されました、東京大学先端科学技術研究センターの特任研究員の大河内直之さん、世界盲人連合アジア太平洋地域協議会WBUAPの会長を務めている田畑美智子さん、独立行政法人大学入試センターで、試験のユニバーサルデザインについて研究、視覚障害者間の情報ネットワーク構築にも関心の強い南谷和範さん、そして司会はこの番組の制作にも携わっている石井則子ディレクターです。

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石井:
今日は自由にこれからの視覚障害者番組について語っていただきます。まずお集まりのみなさんに自己紹介を兼ねてこの番組との出会いから話していただきます。では、レディーファーストで田畑美智子さんお願いします。
田畑:
はい、田畑美智子と申します。今日はよろしくお願いします。普段は民間企業で事務職で働いています。で、あのう、夕方夜と週末と休暇を使って、世界盲人連合アジア太平洋地域協議会を始め、視覚障害分野の国際活動に走り回っています。この番組は大学生の頃からなんとなく聞いてたんですけれど、実はあのう、1990年代の始めに視覚障害者でいろいろな仕事をしている人を取材するシリーズがありまして、私の職場に番組が来てくださいました。今日はどうぞよろしくお願いします。
石井:
はい、続いて、大河内直之さんです。
大河内:
はい、えー、大河内です。東京大学先端科学技術研究センターというところにバリアフリー分野というところがありまして、そこでバリアフリーの研究をしております。で、私が主に取り組んでおりますのは、あのー、視覚と聴覚両方に障害を併せ持つ盲ろう者と呼ばれる人たちの支援に関する研究が中心のテーマです。えーと、この番組との関わり、最初の関わりはですね、私が4歳ぐらいの頃だったと思います。実は、私の兄も視覚障害でして、筑波盲学校の幼稚部に通っていたんですね。その時の子供たちのその言葉を詩にまとめてラジオで流すという、番組、この番組で取り上げられたんです。母親がラジオを聞いている横で僕はこの番組を聞いていて、兄の名前がラジオから流れて、いつも言っているようなことが詩になって流れているということがですね非常に身近にラジオというものを感じるようなきっかけだったというのが、この番組との関わりです。どうぞよろしくお願いします。
石井:
はい、さて、もう一人、南谷和範さんです。
南谷:
どうも、南谷和範と申します。独立行政法人の大学入試センターというところに勤務しております。えー、大学入試センターは皆さんご存知でしょうか。1月に実施されるセンター試験という大学入試に関わる試験を、主になって運営している組織なんですが、私はその研究開発部というとこに所属しまして、障害を有する受験者の為の、公平性の配慮の研究をしております。私の研究の関心としましては、センター試験に限らず、もっと広いいろいろな試験に障害を有する受験者が積極的に取り組めるような環境を整備できたらいいな、と考えている次第です。この番組との出会いのお話をすると、私は科学へジャンプ、サマーキャンプという全国の視覚障害を持つ、中高生に科学の面白さを知ってもらおうというサマーキャンプのお手伝いをしておりまして、たしか4年ぐらい前ですけどね、取材してくださいました。で、その縁もありまして、それからかなり真剣に聞くようになりました。特にそのネットで音声を公開ていうか紹介していただけるようになりまして、それで時間の制約もなく、自分の好きな時に聞けるようになったので、えー、最近楽しまさせていただいてます。今日は、よろしくお願いします。
石井:
よろしくお願いします。えー、それでは、早速討論に入りたいと思います。ご存知のようにこの番組は50年間放送を続けてきました。番組の大きな柱は2本あります、視覚障害者向けの情報番組であること、そしてラジオ放送というラジオという媒体を使う事。この2点を柱に放送を続けてきました。今回はこれからの50年ということで、誰にどんな内容をお伝えしていくのがいいか、いろんなご意見を伺いたいと思っております。大河内さんからいかがでしょう。
大河内:
そうですね、ま、東日本大震災があったりですとか、それからその前には、その阪神大震災があったりですとか、様々な情報が必要になったこの状況というのがあったと思います。その中で視覚障害を持つ人たちは情報障害と言われますけれども、そういう人たちにとって、やっぱりラジオというのは大きなライフラインなんだろうなと、今から振り返ると感じています。で、ラジオというのは聞こえてくる情報、あの情報にアクセスするハードルが多分低いものの一つだという風に思っています。50年この番組が見えない人達の為にいろんな情報を届けてきた。言ってみれば社会が視覚障害者に情報を届けてきたという構造で番組が作られてきたとは思いますけれど、多分これからの50年というのは、ま、その成果として視覚障害を持つ人たちがどんどん社会に参加してきたわけですよね。で、参加してきた視覚障害者達がやっぱ自分で今度情報を発信するということ、もっと重きにおいてこの番組が活用されるといいのかなと思います。で、その内容コンテンツについては、視覚障害を持つ人たちの中でもっともっと議論をする必要があるのかなと、今は考えております。
田畑:
今ありましたその当事者による発信の推進というのは、私もすごくいいことだと思います。海外でも、あの、いろんな国の盲人協会が自分達で番組を作ってのせたり、それから、自分達でラジオ局を持ってたりするので、やはりもっともっとその当事者が発信する側になっていくというのは大切だと思います。それから皆さんご承知のように、国連障害者の権利条約からこちら、いろんな制度の過渡期にあって、差別解消法ですとか、総合福祉法ですとか、いろんなことが私達の生活のまわりで制度的にどんどん変化している時期なので、やはりそういう情報というのは、ラジオを通してでもフォローできるようにしていければいいなと思います。
南谷:
えーと、大河内さんからお話があったように、緊急時と災害時というのは、とにかく情報取得のハードルを下げるというのが大切で、そういう場ではラジオの果たす役割っていうのは、―これは多分視覚障害者に限ったことじゃないと思うんですけどね―健常者の皆さんも含めて、非常に大きくって、そういう情報の提供っていうのは、これは切に願うところです。ただその一方で、―僕はちょっと欲張りなのかもしれないけど―思うのは、例えば国とか地方公共団体が提供しているサービス・情報っていうのは、やっぱり実際にやっている国とか地方公共団体が主体になって積極的に情報を網羅的に伝えていく努力をもっと頑張って欲しい。責任を持ってサービスを提供している側が第一義的には情報提供もしていくべきではないかなと。
むしろこの番組に僕が期待しているのは、先ほどの当事者からの発信とちょっと関係するのかもしれないけど、あの他の視覚障害者がどういう活躍をしているのかとか、どういう面白い試みに取り組んでいるのかとか、どんどん積極的に紹介して欲しい。ま、つまり、視覚障害者同士が知り合える、お互いをもっと知りあえるような情報の提供ということを、これもこちらの番組でかなり積極的に行ってらっしゃるとは思うんですけれど、より一層力を入れてほしいなぁと感じております。
田畑:
ラジオがネットワーキングの場として機能できるとすごくいいですね。特に地方にいる視覚障害者ってそんなにたくさん周りに人がいないかもしれない。で何かこう別のルートでもネットワークする機会が必要なんじゃないかなと思うので、特に私なんかあの、途上国のラジオの話を聞いていると、やはり例えばモンゴルは、あの、日本の4倍の面積があって人口は300万人しかいないんですよ。だから多分隣の視覚障害者って100㌔ぐらい離れたりとかするんですよね。そういうところで、盲人協会でラジオ持ち込んで視覚障害者のネットワーキングを強めようとしているんで、やっぱりここのラジオでもお互いに知り合って、特に地方で視覚障害者が孤立しないような支援、支援というか機能になっていけばいいじゃないかなと思います。
石井:
田畑さん、WBUAPでもラジオっていうのは有効なメディアなんでしょうか。
田畑:
はい、アジアに限らず、世界各国であの、視覚障害者のエンパワメントの為にラジオは結構活躍しています。で将来的にはですね、アジア太平洋の視覚障害団体のネットワークであるWBUAPがインターネット上にラジオを作ってはどうかという構想がでています。で、そこで各国の取り組みですとか、それぞれ困っていることですとか解決方法ですとか、そういったものをアジア太平洋地域内でラジオを通じてシェアしてはどうかと考えています。
石井:
はい、もう一つその、番組スタート時には、情報が届かない人達に情報を届けるという大前提があったんですけれど、例えば、盲ろうであるとか、情報弱者という方々に対してどんな風な取り組みが今ラジオから必要かということについて。
田畑:
盲ろう者の方なんですけど、最近時々、あのこちらの番組テキスト化して配信していますよね。そういったのってどんどんもっと技術が発展してもっと早くできると、もっと盲ろう者の人達に届けられるのかなぁって思うんですけれど多分。
大河内:
そうすると、全盲ろうの方もテキストで流れていると皆さん読まれていて喜ばれていますので、そういう意味では必要なことなんだとは思いますけれど。
南谷:
えーとですね、今、盲ろうの方のこと中心にお話が出てたんですけれど・・・。インターネット、これは視覚障害者にしろ、健常者にしろ使うときというのは、おおむね検索サイトをもちいて、検索して何か有用な情報に到達するってのが、標準的なアプローチとして定着しているのが現状です。そうするとですねテキストお越しして番組の内容がウェブサイトにあがっていると、検索でひっかけてもらえてすみやかに番組情報に到達できる。だから、テキストお越しというのは、視覚障害者であったりとか、あるいは健常者でもですね、非常に助けになるものなので、近未来の導入を期待したいと思います。
石井:
はい、そこでですね、今回皆さんにお知恵をいただきたいのは、そのコンテンツなんですね。ま、皆さんそうやって検索したり、聞いてくださると。では内容は、これまで通りでいいのか、あるいはもっとこういう事を取りあげて欲しい、あるいは本当に必要な情報はこれだと、そういうご意見はいかがでしょうか。
田畑:
やっぱりこう、まだまだ視覚障害者で実際に取り組んでいることで世の中に出てきてない物ってたくさんあると思うんで、こんなことができるんだっていう情報の発信っていうのは引き続きお願いしたいと思います。特に例えば、地方に行くと一般就労ほとんど厳しいんですよね。だからその、仕事の事ももっと出してあげたらいいんじゃないのかなぁと思ったりしています。
石井:
働く人々の姿を伝えるということですか。
田畑:
はい。
大河内:
ま、いろんな方がこの番組出られてるんですけど、やっぱり視覚障害者の中で有名な方が出演される確率が高いと思うんです。この番組は。もちろんそれは意味があるんだと思うんですけど、自分なんかは、このラジオなんかにはでられないよという風に思っている視覚障害の当事者の方がもっと発信できるような場になって欲しいなと、僕も含めてなんですけど思います。で、もう一つは、もう少し趣味だったりとか、この番組でも旅行の話とかずいぶん取り上げられてますけれど、もっとこうなんていうんですか新しいコンテンツ、・・あの南谷さんなんかは飛行機が趣味なんだと聞いたことがありますけれどもそのような・・。
田畑:
操縦するんですか。
南谷:
ラジコンヘリコプターですけれどね。
操縦は結構好きなんです。
大河内:
あのー、そういう話って自分だけだって思っている視覚障害者が多いんですけれど、意外と僕は南谷さんの趣味にものすごく共感してちょっと面白いなと思ったことがあるんですね。やっぱりそのちょっと変わっているけれど、これまで、まさか視覚障害を持つ人がそんな興味を持たないだろうというようなことがたくさん、僕はあるような気がしていて、そういうものを、えー、みんなで見つけていって共有していく、ってことも一つのコンテンツなのかなと思います。
田畑:
すいません、今のを受けて仕事も含めてなんですけれど、このラジオちょっとがんばってきたなと思っているのは、あの、困っていることとかも結構発信ででてくるようになってきていて、あの、障害があって孤立感がある時にほっとする瞬間っていうのは、あ、同じ悩みを持っている人は自分だけじゃないんだとわかる時ってすごく大きいと思うんですね。だから、あの、発信の中では、やはりその、ま、公共の電波だから中々なんでもだせるかどうか、わからないんですけれど、可能な範囲で実際困っている事とそれがどうやったら解決できるかとか、その、皆さん、あ、自分だけじゃないんだなと思えるような、あの、そういった内容、実際こう直面している問題とか解決とかが出てくると、こう、孤立しがちな障害者には勇気になるんじゃないかなと思いました。