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尼崎脱線事故 遺族が求める組織責任

 兵庫県尼崎市のJR福知山線脱線事故の遺族らが、重大事故を起こした企業に刑事罰を科す「組織罰」の制度化を求める団体を設立した。

     乗客106人が犠牲になった惨事にもかかわらず、一人も刑事責任を負っていない。11年たっても消えない遺族の処罰感情が出発点だが、個人責任である刑事罰を組織に負わせるには課題も多い。導入の是非を幅広く議論する必要がある。

     脱線事故では、JR西日本の社長経験者4人が業務上過失致死傷罪で起訴されたが、1人は無罪が確定し、残る3人も地裁、高裁で無罪判決を受けている。多数の人命を預かる公共交通機関のトップといえども、刑事罰を科すのは難しい。役職が現場から遠くなるほど、具体的な事故を予測し、回避できたはずだと立証するのは困難になるからだ。

     同罪では個人の責任しか問えないため、このままではJR西日本は全く刑事責任を負わないことになる。

     一方、脱線事故の背景には、私鉄との競争に勝つため余裕のないダイヤを組んだことや、ミスに対する懲罰的な指導が乗務員に重圧を与えたことなどがあったとされる。しかし、個人が対象の裁判では、そうした企業倫理の問題の解明に踏み込み切れなかった。

     遺族が、やりきれなさを感じるのも無理はないだろう。遺族団体は、業務上過失致死罪の対象に会社などの組織を加える特別法制定を国などに働きかける。素案では会社の業務として従業員が死亡事故を起こした場合、会社の規模に応じた罰金刑を科す。会社は事故防止義務を尽くしたことを立証すれば免責される。

     刑事罰の抑止効果で会社を挙げて事故対策に取り組むはずだと遺族は期待する。

     一方で、組織罰導入に関しては、組織を守るため関係者が証拠を隠したり証言を拒んだりして事故調査が進まず、真相究明を妨げる恐れがあるという慎重論も根強い。業務改善命令など行政による処分で事故防止を図るべきだという考えもあり、これまで議論は深まらなかった。

     英国では遺族らが組織の刑事責任を問える法改正を求め、2007年に新法が成立した。死亡事故を起こした法人の安全対策が不十分と認められれば上限なく罰金刑を科すことができる。処罰感情への配慮だけでなく、刑事罰の抑止効果で事故が減れば社会的コストが抑えられるという国民的な理解が得られたためだ。

     高度化、複雑化した巨大組織の安全システムは事故が起きた場合、責任の所在を明らかにしにくい。事故の責任を問うにはどのような制度が望ましいか、組織罰の是非を含めて議論を深めたい。

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