二つの動脈 応急手当 新幹線、損傷区間で大幅減速 九州道、橋沈下「自社で解決無理」 熊本地震

車両基地に向け、けん引される九州新幹線の脱線車両=22日午後、熊本市西区
車両基地に向け、けん引される九州新幹線の脱線車両=22日午後、熊本市西区
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九州道の益城熊本空港IC-嘉島JCT間の下り車線では、盛り土ののり面が大規模に崩落していた=22日午後、熊本県益城町
九州道の益城熊本空港IC-嘉島JCT間の下り車線では、盛り土ののり面が大規模に崩落していた=22日午後、熊本県益城町
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 熊本地震で寸断された九州新幹線と九州自動車道。二つの大動脈の復旧が急ピッチで進んできた。いずれも被害が大きく早期再開は難しいとみられていたが、懸命の作業で復旧部分が拡大。しかし、全面復旧にはなお多くの難題が残っている。現場では余震が続き、梅雨も待ち受ける。九州の基軸である交通網がいつ復活するか、まだ見通せない。


 22日、福岡市の主婦(64)は、JR博多駅の窓口で九州新幹線の復旧見通しを尋ねていた。気掛かりなのは熊本市に住む娘家族。「娘には赤ちゃんがいるので、時間がかかる高速バスなどで福岡に来るのは難しい。新幹線が復旧したらすぐこちらに呼び寄せたい」

 JR九州は同日午後、九州新幹線の博多-熊本が23日正午ごろ営業運転を再開すると発表した。14日の地震発生から9日後、折しも23日に熊本入りする安倍晋三首相にとっては「早期復旧」をアピールする場面ともなる。

 1日平均約2万6300人が利用する「ドル箱区間」の早期再開が可能となった背景には、設備の被害が比較的少なかったことが大きい。九州新幹線全区間では防音壁落下や高架橋亀裂などの被害が約150カ所発生したが、うち博多-熊本は25カ所にとどまった。

 「運行に最低限必要な機能をまず復旧させる」という方針の下、JR九州は損傷設備に「緊急避難的」な補修を施した。例えば、防音壁が崩れた部分には針金やロープを張って代替。高架橋のひび割れも「致命的な損傷はない」(同社幹部)として、まずは運行を再開させ、その後継続して本格的な修繕をする方針だ。

 しかし、14日の地震では、時速約80キロで走行中の回送車両が脱線した。余震は現在も続いており「また地震が来ても大丈夫なのか、怖い部分もある」(福岡県の会社員男性)といった利用者の声もある。

 「新幹線は重要インフラ。熊本の復興のため、『怖いから動かさない』というわけにはいかない」。津高守・安全創造部長は、こう強調。損傷箇所のある新玉名-熊本の約22キロは通常の最高時速260キロから70キロに減速して、安全確保を図ると説明する。

 全区間の運転再開へ、残るは熊本-新水俣。「最大の難所」は、熊本駅南側の脱線車両だという。22日は一部車両の撤去を終えたが、台車交換が必要なほど損壊が大きい車両もある。新八代駅のホーム基礎部など重大な損傷も少なくなく、同社はなお全面復旧の見通しを示せずにいる。


 西日本高速道路は22日、通行止めが続く九州自動車道で、熊本県益城(ましき)町の復旧工事現場を報道陣に公開した。崩壊した道路や損傷した橋など被害箇所では、24時間態勢で作業が進んでいた。ただこうした作業は本工事に取りかかる前の準備段階。関係者からは「(本格再開は)1、2週間で終わるような簡単な工事ではない」との本音も漏れる。

 訪れたのは、益城熊本空港インターチェンジ(IC)と嘉島ジャンクション(JCT)の間。バス停留所近くの下り線では、片側2車線の盛り土ののり面が幅約40メートル、高さ約4メートルにわたって崩れていた。土がむき出しになった現場で、作業員や重機が動き回る。崩落が上り線に広がるのを防ぐため、中央分離帯の横に鉄の板を差し込む作業が進んでいる。

 下り方向にさらに1・3キロ。全長約870メートルの木山川橋との継ぎ目から、道路が50センチ程度沈んでいた。橋と桁を結ぶ装置の大半が壊れ、橋自体も数十センチ沈下。余震で橋が崩落する恐れがあり、補強作業中だ。その先に、崩れそうな橋と道路を修復し、路面の高さもそろえる難工事が待つ。「工事は当社の知識だけでは無理」(同社)という。

 この現場のほかに、九州道では橋の損傷が4カ所あり、道路のひび割れ、段差などは「数え切れない」(同)。嘉島JCT-八代ICは来週前半にも走行可能になる見通しだが、全線復旧の見通しは立たない。

 工事は余震で中断が繰り返され、休日なしの作業員の疲労も蓄積する。熊本高速道路事務所の早瀬正文副所長は「復旧に最大限の力を振り絞っている。お客さまからの問い合わせも多いので、九州道は早く復旧させないといけない」と話した。

=2016/04/23付 西日本新聞朝刊=

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