報道の自由 外からの指摘にも耳を
日本における表現の自由について訪日調査していた国連特別報告者、デビッド・ケイ米カリフォルニア大教授が記者会見し、「日本の報道機関の独立性が深刻な脅威にさらされていることを憂慮する」と、報道の自由に対する懸念を表明した。
この中でケイ氏は、放送法などの改正を求めた。日本政府への勧告は来年予定されている。憲法が保障する言論の自由についての指摘であるだけに、耳を傾けたい。
国連調査の背景の一つには、番組の政治的公平を定めた放送法4条を根拠に、放送局の電波停止に言及した高市早苗総務相の発言がある。
この問題についてケイ氏は「4条を廃止し、政府はメディア規制から手を引くべきだ」と述べた。放送局の監督も、政府自体でなく独立行政機関が行うよう要請した。
4条は放送局が自らを律する倫理規定と、多くの法律関係者が考えてきた。問題は4条の改廃ではなく、制裁を視野に入れた法的規制とみなす政府解釈の誤りにある。
放送の問題はNHKと民放が設立した放送倫理・番組向上機構(BPO)が自主的に解決すべきだ。放送法は放送局の社会的影響力の大きさを勘案した最低限のルールである。
気がかりなのは、一部団体が放送法4条違反を理由に、放送局に圧力をかけていることだ。
安全保障関連法に関するTBSの報道が政治的公平性を欠くとして、「放送法遵守(じゅんしゅ)を求める視聴者の会」という団体が同局に対し、スポンサーへの「国民的な注意喚起運動」を検討する旨の声明を出した。
番組の批判は自由だが、圧力で言論を抑えつけることはあってはならない。TBSが「表現の自由、ひいては民主主義に対する重大な挑戦である」と反論したのは当然だろう。
またNHKの籾井勝人(もみいかつと)会長は政治的公平について、番組ごとにバランスをとるよう努力しなければならないと発言した。「一つ一つの番組を見て、全体を判断する」という政府統一見解に同調するような姿勢であり、現場を萎縮させかねない。
報道の自由に関しては、国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団」の2016年各国ランキングでも、日本は前年の61位から72位に順位を下げた。
表現の自由を巡る国連調査は昨年予定されながら、政府の要請で突然延期になった。ケイ氏は今回、報道関係者らに話を聞いたが、高市氏との面会は実現しなかった。
過去の国連調査には、実情を正確に把握しているとは言えないものもある。もし見解が異なるなら政府は丁寧に説明すればいい。ただ日本への懸念が国外にも広がっていることはきちんと認識する必要がある。