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日刊幼女みさきちゃん! 作者:下城米雪

第一章 最初の一歩

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一歩進んだ日

 三月も終わりが近くなり、気が付けば吐く息が白くなることはなくなっていた。

 みさきが保育園に言っている時間。
 俺は部屋で独り天井を見ていた。

 やることが無くて、だけどバイトをする気にもなれない。
 大きな達成感を味わった後だからか、どこか無気力だった。
 よく分からない感情に目を細めながら、とりあえず先のことを考える。

 和崎優斗ロリコンの会社に初出勤する日は4月1日に決まった。ちょうどキリの良い時期だから、とのこと。まだ何をする仕事なのか具体的に分かっていないが、月に20万以上の給料を支払うことは約束してくれるらしい。口だけなら何とでも言えるが、どうやら嘘を言っているような目ではなかった。

 さて、20万という数字を聞けば嫌でも思い出すことがある。すっかり忘れていたが、明日は生活保護費の支給日だ。

 所持金を確認すると、まだ諭吉が10人以上残っていた。無駄に使わなければこんなものなのか、それとも張り切ってバイトをし過ぎたせいか。

 思えば生活保護の支給が始まったのは4年と少し前だから、ちょうど次で50回目だ。一回の支給額は20万だから、ぴったり一千万。ほとんどパチンコに消えたけどな。

 ともかく、せっかく金があるのだから、みさきに何か買ってやろうと考えた。
 だが暫く考えた後、首を横に振る。

 ……やめよう。

 俺は立派な親になると決めたんだ。
 それなのに、いつまでも不正受給を続けてるってのはどうなんだ?

 一番の目的はみさきを幸せにすることで、その為には金が要る。この先も不正受給を続けたって、きっと問題にはならない。絶対にばれない自信がある。

 だけど、それってどうなんだ?
 そういう金で育てられたって知った時、みさきはどう思うんだよ。

 決めた。

 俺は直ぐに立ち上がって、市役所を目指した。それから窓口に立って、職員に言う。

「あの、生活保護をやめに来たんですが……」

 兄貴の所でバイトをしていた効果なのか、自然に丁寧な言葉が出た。日本語は怪しいけどな。

「はい、では、お名前をお聞かせください」
「天童龍誠です」
「はい、天童さん。少々……あれ、天童龍誠さん?」
「……なにか?」
「あ、いえ、失礼しました……えー、少々お待ちくださいね」

 妙に意味深な態度で、職員は窓口を離れた。
 何だったのだろうと眉をしかめながら待っていると、やがて別の職員が現れた。

「天童龍誠さんで間違いありませんか?」
「はい」

 わりと年配の職員は、どこか緊張した様子で、見るからに表情が強張っている。

「本日は生活保護の停止を希望とのことですが……いったい、どんな理由で?」
「娘の為です」
「娘さん? でしたら、むしろお金が必要なのでは?」
「金には困ってません。だから、やめにきました」
「…………」

 きっぱり言うと、年配の職員は重たい息を吐きながら目を閉じた。やがてゆっくりと頷いて、どこか安心した様子で目を開く。

「分かりました。ならば明日、娘さんと一緒にもう一度ここへ来てください。いつなら都合が良いですか?」
「……6時くらいなら」
「分かりました。では明日の6時、もう一度ここへ来てください」

 ん? 市役所って5時までじゃねぇのか?
 それに、娘と一緒ってどういうことだ?

「はい、分かりました」

 まぁ、職員が言うなら従うしかねぇか……。



 翌日。
 俺は保育園までみさきを迎えに行った。

「あ、天童さん。お仕事お疲れ様です」

 すっかり顔見知りとなった保育士からみさきを引き取って、市役所へ向かう。
 いつものように、みさきは俺の隣をてくてく歩いてついてきた。

 保育園から近い所では、俺達以外にも親子の姿がちらほらと見える。みんな仲が良さそうで、当然のように手を繋いでいる。子供はギャーギャー騒いで、親は楽しそうに子供を見ていた。

 それと比べると、俺とみさきの関係は少し弱いように思えてしまう。だって、まだ手を繋いだことも無い。みさきも同じようなことを思っているのか、ときどき他の親子を見ていた。その顔は無表情だが、何を考えているのだろうか。

「……ん?」
「いや、その、何を話そうかと思ってな」
「なに?」
「……そうだな、たまにはみさきから聞きたい事とかねぇのか?」
「ききたいこと?」
「ああ、何か聞きたいことはあるか?」
「……んん?」

 特に無いらしい。

 静かに、俺達は市役所へ向かった。
 途中で道が違うことに気が付いたみさきが俺のズボンを引っ張ったが、お出かけだと伝えると目を輝かせた。普段は5歳とは思えないほど落ち着いているが、こういう所は子供っぽい。

 思えば、もう一ヶ月だ。
 俺はみさきから沢山の感情をもらったが、みさきには何か与えてやれただろうか?

 この小さな女の子は、見た目からは想像も出来ないくらい強い。何事にも一生懸命で、優しくて、どんな仕打ちを受けても泣き言ひとつ言わない。

 そんな子供の親を名乗って、しかも幸せにしてやろうなんて身の程知らずにもほどがあるって話だ。

 みさきの小さな歩幅に合わせて歩きながら、ずっとそんなことを考えていた。



 市役所に着いた。
 無駄に豪華で、きちんと手入れされた盆栽や池、噴水なんかもある。この無駄な装飾は税金によって施されているのだろうが、市民は苦情を言わないのだろうか? 消費税と源泉徴収でしか税金を払っていない俺にはピンと来ない話だが……。

「閉まってるじゃねぇかよ」

 明らかに無人じゃねぇかと思いながらも、信じて自動扉の前に立ったらやはり裏切られた。振り返って噴水の上にある時計を見ると、時間は5時40分くらい。問題は無いはずだ。

 ……少し待って来なかったら帰るか。

「りょーくん、はいらない?」
「あー、人を待ってるんだよ」
「ひと?」
「わりぃな、みさきも少し付き合ってくれ」
「あのひと?」

 なんだよ居るなら声かけろよ。

「……うそだろ」

 みさきの見ている方に目を向けて、俺は言葉を失った。そこには正礼服に身を包み、スーツケースを片手にピンと背筋を伸ばす女性が居た。

 俺は、あの人を知っている。
 忘れるわけが無い。

「りょーくん?」

 俺のズボンを引っ張ったみさきが、少し心配そうな声で言った。どうやら今の俺は心配されるような顔をしているらしい。

 俺と彼女は互いの目を見たまま何も言わなかった。

 近くを通る車の音。
 風が草木を揺らす音。
 そして、心臓の音。

 その全てが俺をイラつかせる。

「……みさき、行くぞ」

 なぜ彼女がここに居るのか、それは考えたら直ぐに分かった。しかし、それを受け入れることがどうしても出来なかった。

 だから俺はみさきを連れて、彼女の横を通り過ぎようとした。

「……待ちなさい」

 擦れ違った直後、彼女は蚊の鳴くような、だけど不思議と耳に残る声で俺を引き止める。

「……いいえ、待ってください」

 俺は振り返らず足を止めた。もっと動揺しているかと思っていたが、隣でみさきが状況を掴めずに戸惑っているのが分かる程度には落ち着いていた。

 振り返る。
 目が合う。

 長い沈黙の後、先に口を開いたのは彼女だった。

「ごめんなさい」

 果たして、8年振りに出会った母親が口にしたのは謝罪の言葉だった。それを聞いて、俺は直前に考えたことが真実だったと確信する。だけど、それでも納得は出来なかった。

「……なんでだよ」

 きっと俺にしか伝わらない問いかけが、ポツリと零れる。

「後悔してるんだろ……?」

 四年前、俺は友人の勧めで生活保護を申請し、受理された。それから毎月欠かさずに支払いが行われたが、不正受給を疑われたことは勿論、調査員と話をしたことすらなかった。

 なぜ? 疑問に思ったことすら無かったが、その答えは目の前にある。

「あんたは、いったい何がしたいんだよ」

 もっと取り乱すと思った。だけど言葉は不自然なくらい落ち着いていた。その理由は薄らと分かりかけている。だから俺は、主語の無い問いかけをしたまま、彼女の返事を待った。

「……貴方には、私がここに居る理由が、分かっているのですか?」
「あの金は私が払ってましたって言いに来たのか? そうじゃねぇだろ。だから俺は……あんたの涙の理由を聞いてるんだ」

 ついに主語を持った問いかけに、しかし彼女は答えられなかった。初めて目が合った時から潤んでいた彼女の瞳から大粒の涙が零れ、嗚咽と共に両手で口元を抑えて俯いた。その姿を前に、俺は唖然と立ち竦むことしか出来なかった。

 最初に動いたのは、みさきだった。

「……だいじょうぶ?」

 大人達が何も出来ない中、まだ5歳の小さな女の子が自分の意思で動いて、自分の意思で声をかけた。その姿を見て、みさきという女の子の強さを改めて思い知らされる。同時に、自分の情けなさも痛感させられた。

 何かしなければ、そう思った直後だった。

「……わた、しは」

 嗚咽が止まらないまま、彼女は声を出した。

「あなたを……産むべきでは、なかった……きちんと、そだて、られない、ことは……分かって、いました。果たして、私は、親としての義務を……放棄した」

 ……待てよ、突然なに言ってるんだよ。

「最低です。私は、本当に、最低です……」

 最低ね、本当に。やっぱり、産まなければよかった。
 あの時の言葉の意味が、俺の中でクルクルと反転する。

 信じられない。
 だが嘘を吐いているとも思えない。
 俺は、だんだん頭の中が真っ白になっていくのが分かった。

「……嘘だ。あんたは、ずっと後悔していたってことか? 有り得ないだろ、あんたには何の得もねぇだろ。俺を気にする理由なんて、どこにもねぇだろ……っ!」

 まるで子供みたいな事を言っているという自覚はあった。
 理性では全てを理解している。
 しかし感情が真実を受け入れることを断固として拒んでいた。

「……理由、ですか。簡単です」

 顔を上げた母親は、とても優しい目をしていた。
 その目を見て、俺の胸がざわつく。これから彼女が何を言おうとしているのか、何を思っているのか、それがぼんやりと伝わって来た。

 母親という存在がどんなものなのか、俺は知らない。
 今も、昔も。
 つい先日、小日向さんの口から出た「普通の母親」が理解出来なかった。俺にとって母親というのは、自分の都合で子供を産み、自分の都合で切り捨てる、そんな自己中心的な存在だ。

 育てるということは、金を与えるということ。
 金さえ与えていれば、他には何もしなくていい。
 そう思っていた。

 だからみさきを育てると決めた時、何をすればいいのか分からなかった。いや正確には、金を与えるという以外の事が思い付かなかった。きっと俺は、それを無意識に否定していた。否定したかった。

 だってそうだろ?
 金で子供が幸せになるなら、親なんて必要ないじゃねぇか。

 多分、みさきが居ない間に部屋で天井を見ていた時に感じた気持ちの正体が、これだ。

 立派な親って、なんなのだろう。
 きっと誰もが口を揃えて言う「普通」がその答えで、だけど俺は答えを見たことが無いから、それが何なのかは分からなかった。俺は酒も煙草もギャンブルも止めて、仕事も決まった。きっとこれから普通に働いて、普通に金を稼いで、普通にみさきを育てられるようになるのだろう。そのことに、何の喜びも感じられなかった。

 誰かが言う普通と、俺の中にある普通が、どうしても重ならなかった。
 だからきっと、心の何処かで、求めていた。
 その度に、母親の影が脳裏に浮かんだ。

「……なんだよ、理由って」

 問いかける。
 子供の問いを受けて、母親は優しく微笑む。
 そして、ごく普通の返事をした。

「子供のことが気にならない母親なんて、居るわけが無いでしょう」

 産まなければ良かった。そう言われて以来、彼女とは一言も会話していない。
 中学を卒業して、家出してから8年間、彼女とは一度も顔を合わせていない。
 そんな相手の口から出た言葉を、しかし俺は否定する事が出来なかった。

 それはきっと、彼女の考えていた事が分かるからだ。

 社会的に優れた地位に居る彼女と、最底辺に居る俺は、文字通り別世界の住人だ。それでも、ある部分で共通している。いやきっと誰もが同じ感情を共有している。

 子供の育て方なんて、誰も分からないんだ。
 だから必死に頭を働かせる。
 正解が分からないのだから、失敗したっておかしくない。
 むしろ、失敗しない方が難しい。

「……そうか」

 みさきを育てると決めてから、俺はいつも不安だった。

 みさきに相応しい親になんてなれるのだろうか。
 不自由な思いをさせていないだろうか。
 幸せを与えられているのだろうか。
 今日はどうだったか。
 明日はどうしようか。
 今の会話に間違いは無かったか。
 今の判断に間違いは無かったか。 
 みさきは何を考えている?
 何をするのが正解だ?

 分からない、何も分からない。
 だけど分からないまま、何かをするしかない。

「……あんたも、同じだったんだな」

 ふと、俺は兄貴が言っていた言葉を思い出した。

 ガキを叱らなきゃなんねぇのも、大人の責任だ。それが分からないヤツは子育てなんかやめちまえ。

 きっと彼女は、あの事件以来ずっと自分を責め続けていたのだろう。
 ならばそれが、涙の理由だ。

「…………」

 何も言えないで居ると、彼女は唐突に持っていたスーツケースを差し出した。
 そこに嗚咽が止まらなかった女性の姿は無い。
 代わりに、一人の母親の姿が有った。

「一千万円入っています。貴方への慰謝料と、祝い金です」
「……」
「受け取ってください」
「……」
「受け取りなさい」
「……受け取れねぇよ、こんなの」

 俺、どれだけ馬鹿だったんだよ。
 こいつの立場で考えてみやがれ。
 もしも、みさきが何か事件を起こしたとして、叱り方を間違えて、それから一度も話が出来なくて、そのままみさきが居なくなったらどう思う?
 そんなの、辛すぎるだろ……。

「龍誠、貴方にはコレを受け取る正当な権利があります。これは、貴方のものです」
「……ろ」
「そのお金で、この子に何か買ってあげなさい。それから、住む場所を変えるのもいいでしょう。あんな場所では、身体に悪いですよ」
「……やめろ」
「もちろん、貴方の趣味に使っても構いません。自由です」
「やめろよ!」

 ガキみたいな事をしているって自覚はある。
 もうとっくに全てを理解出来ている。
 だけど我慢できなかった。

「やめろよ!」

 押し付けられているスーツケースを振り払って、喉が千切れるかと思うくらい叫んだ。叫ばずには居られなかった。この8年間、俺は自分の境遇について考えたことは無かった。いや違う、きっと避けていたんだ。それが分かって、途端に、訳が分からなくなった。

「いまさら、母親みたいなこと……するんじゃねぇよ!」

 彼女はスーツケースを差し出す格好のまま、力無く俯いた。

「……とにかく、あれは貴方の物です」

 今にも消えてしまいそうな声で呟いて、彼女は踵を返した。その寂しそうな背中がゆっくりと、だけど確実に遠ざかって行く。

 きっとこれは、彼女なりに考えた親としての行動だったのだろう。
 子供の為に出来ることなんて、お金を与えることしか知らなかったんだ。
 だから彼女は失敗した。でも、それって悪いことなのか?

 確かに彼女は最低の母親だ。
 それでも、彼女なりに精一杯やっていたんだ。
 その努力を全否定するなんて、絶対に間違っている。

「待てよ」

 今度は、俺が彼女を呼び止めた。
 だが彼女は足を止めない。
 俺は地面に落ちたスーツケースを拾って、その背中を追い越した。

「……言ったでしょう。それは貴方の物です」
「好きに使っていいんだろ?」
「……あなた、まさか」
「ぴったり一千万。これまであんたに貰った金だ」
「やめなさい、私は」
「受け取ってくれ。そうじゃないと、俺は前に進めない」

 みさきを育てる。
 みさきを幸せにする。
 その為に、立派な親になる。
 ならもう、ガキみたいな事は終わりにしよう。

「受け取ってください。ここまで育ててくれて、ありがとうございました」

 頭を下げる。
 返事は、いつまでも聞こえてこなかった。
 気が付いたら、持っていたはずのスーツケースも、母親の姿も消えていた。

 ……ああクソ、ダメだ、動けねぇや。

 顔を上げた俺は、呆然と空を仰ぐ。
 空は少し暗くなっていた。

 そうしていると、不意に何かが俺のズボンを引っ張った。
 何かって、みさき以外に居ない。

 ……ほんと、ダメな親だな、俺。

 目を向けることは出来なかった。
 いま下を向いたら、零れてしまいそうだったから。
 そしたらみさきに慰められてしまうのだろうなと思った。

「……」

 だいじょうぶ? そう聞こえたような気がした。
 やっぱり、みさきは……そんな考えをかき消したのは、鼻をすする音だった。

「……みさき?」

 気になって目を向けると、みさきが口を一の字にして、子供らしい大きな目を潤ませていた。

「どうした?」
「…………」

 とても辛そうな表情で、何度も鼻をすすりながら、震える唇で、

「……おかあさんも、わたしのこと、きにしてるかな」

 そう言って、一筋の涙を零した。

「……」

 俺は、悔しかった。
 何も分かっていなかったんだ。

 強くて優しい女の子?
 違う。目の前に居るのは、ただの5歳の子供だ。

 ……かっこ悪すぎるだろ、天童龍誠!

「みさき……泣くな」

 歯を食いしばって、たった一言を絞り出した。

「……りょーくんも、ないてる」

 俺は膝を追って、みさきに目線の高さを合わせる。
 親として、出来ることをしようと思った。

「いいかみさき、いい女はな、男が泣いてる時は黙って抱き締めるんだ」

 今の俺には、こんなふざけたことしか言えない。
 それが悔しくてたまらない。

「……だき、しめる?」
「……こうするんだよ」

 ゆっくりと、小さな体を抱きしめた。
 今にも消えてしまいそうなみさきを離さないように、強く強く抱きしめる。

 直ぐに震えが伝わって来た。
 みさきは、ついに声を上げて泣いた。
 子供らしく、大声で泣き喚いた。

「……みさき、俺、頑張るよ。今よりもっと、誰よりも……だから、今日が最後だ。みさきも、俺も、もう二度と泣かない……いいな? 約束だ」
「…………んっ」

 少し前に思ったことがある。
 みさきを育てると決めた日から、俺は何か変われたのだろうかと。
 その答えがハッキリと分かった。俺は、何も変わっていない。
 長い時間を過ごした場所から、一歩も動けていない。

 なら立ち上がろう。
 そして歩き出そう。
 無駄に体だけ大きくなった分、俺の歩幅は大きいんだ。
 その分だけ体が重たくなって走る事は出来ないけど、それでも、今のみさきよりは早く歩ける。ならせめて彼女が走り出すまで、俺は前を歩こう。



 すっかり日が暮れた頃、俺は泣き疲れたのか眠ってしまったみさきを背負って部屋に戻った。
 みさきを枕に寝かせて、しっかり布団をかぶせてやる。

 俺は背伸びをしたあと、長い息を吐いた。
 それからみさきの方を見ると、偶然にも出しっぱなしだったノートが目に映る。

 なんとなく手に取って、ふと思いついた。

「……日記、日記を書こう」

 それを毎日続けて、みさきをどれだけ喜ばせられたか確認するんだ。

 そうだな、この日記にタイトルを付けるなら――
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