久間元防衛相も一役買った株価暴騰騒ぎ
株価低迷の折から結構な話――とは言い難い。赤字の住宅メーカーがロシアに人工島建設を謳い、株価が暴騰。裏では大物仕手筋と――。
少々のことでは驚かない証券マンが目を剥いたのが、大阪証券取引所二部上場の「千年の杜(四月一日から東邦グローバルアソシエイツに社名変更)」の株価だ。なにしろ、一月十七日に一株十九円まで値下がりしたボロ株が、世界中の株価が下落しているのを尻目にあれよあれよという間に五百一円まで暴騰したからである。しかも、暴騰の理由は、二〇一四年に冬季オリンピックが開催されるロシアのソチに同社が人工島を建設することだというのだから、呆気にとられるのも当然だ。
黒海に面したソチはロシアの高級保養地として知られているが、平地が少ないため、黒海に人工島をつくり、ホテルや国際会議場、ヨットハーバーなどを建設し、オリンピックに役立てようという壮大な計画だという。同社は人工島建設の許認可を取得したロシアの有限会社ホマル社に資本参加したとも発表している。
さらに二月中旬には、露日経済協議会と、久間章生元防衛相が委員長を務める「二〇一四年ソチ冬季オリンピック協力委員会」が主催する露日投資フォーラムが、東京・江東区のホテルイースト21東京で開催され、来日したアスラン・アタビエフ露日経済協議会理事長やソチ前市長がロシアへの投資を呼びかけたが、千年の杜は唯一、投資に応じる企業として登場。横田尚之社長は人工島の模型やパンフレットを持ち込みプロジェクトの概要を紹介する熱の入れようだった。加えて久間センセイも「人工島が完成すれば日露友好に役立つ」と挨拶するに及んで同社株の人気は“沸騰”した。
「千年の杜は注文住宅の会社に過ぎませんがねえ」と首をひねるのは、ある総合証券の投資情報部長だ。
「同社はかつてキーイングホームといい、工務店に毛の生えたような会社。そんな会社がよく上場できたと建設業界でも感心されたものです。上場後、成長するどころか、経営悪化の連続。今ではショールームが横浜に一カ所あるだけで社員も十二名程度しかいない。だいいち、昨年末には債務超過で上場廃止寸前に陥り、急遽、新株予約権が行使されて債務超過を解消し上場廃止を免れたばかりです。そんな危なっかしい会社がソチで人工島を作るというのですから誰もが驚きます」
もっとも、最近はさすがに熱が冷めたのか同社の株価は百四十円台に値下がりした(四月九日現在)。だが、七月のメドベージェフ新大統領の来日に合わせて人工島の着工が発表され、再び暴騰するという説もある。
それにしても一カ月足らずの間に株価が二十六倍にも暴騰するのは異例だ。横田社長は「人工島の埋め立て工事に二百億円が必要で、その建設費に充当するため新株予約権を香港の投資ファンドに発行した。予約権が行使され新株が発行されれば百十六億円の資金が入る」と取らぬ狸の皮算用をしている。が、今年三月期決算が売上九億円、最終損益は四十六億円の赤字見通しの会社に壮大な人工島が作れるのだろうか。
社長は元偽バイアグラ輸入元
もともと千年の杜は兜町では仕手株として知られている。二〇〇三年に「マルチ商法出身」と陰口を叩かれる投資会社、アルマの高橋誠社長が過半数の株式を買い占めて社長に就任。立て直しのために社名をキーイングホームから千年の杜に変え、ホルマリンなどの化学薬品を使わない「無添加住宅」に進出。当時、シックハウスが社会問題になっていたこともあって仕手筋が群がり、同社の株価が急騰、急落を繰り返すことも多かった。
だが、同社の実態はその後も赤字が続く無配会社だった。まともな投資家は見向きもしなくなり、株価は再び低迷。それどころか、資金に窮すると、MSCB(転換価格修正条項付き転換社債型新株予約権付社債)や新株予約権を発行して資金を掻き集めることが続き、その結果として株数が増加して株価下落に拍車をかけていた。
高橋氏に代わって昨年三月に社長に就任したのが横田氏だ。慶応大学卒業後、旧富士銀行(現みずほフィナンシャルグループ)に入行。同行退職後、外資のアンダーセンコンサルティング、ソニー生命を経て輸入代行会社「瑞祥」を設立。そのとき中国製バイアグラを輸入販売したことが発覚し薬事法違反で逮捕された経歴を持つ人物だ。千年の杜は社長が代わるたびに株価急騰を繰り返してきた会社といえなくもない。
「大掛かりな仕手戦です」
というのは、ある関係者だ。
「前社長の高橋氏は投資家から資金を集め、イスラエルのセキュリティシステム会社やブルネイの石油・ガス事業へ投資したりしている人です。千年の杜のオーナーになったのも投資家から集めた資金で株を買い取ったものです。が、千年の杜では勝手が違った。増資した資金を持ち逃げされたり、無添加住宅の商標権取得話で騙されたりして資金繰りに窮してしまった。そのため国内と香港の投資ファンドに総額三十億円の第三者割当増資を実施したら、その香港の投資ファンドにアパレルメーカーのワールド創業者の畑崎廣敏氏が八億円を出資していた。彼は新株予約権も入手して権利を行使しては株数を増やして大株主になり、高橋氏に代えて横田氏を社長に据えた」
畑崎氏は一代でワールドを築き上げた立志伝中の人物で、地元の神戸市では神戸商工会議所の副会頭を務めたこともある名士だが、兜町では「最後の大物仕手筋」としてつとに有名。ワールドを義弟に任せて、大好きな株投資に邁進。数百億円の自己資金を元手にホンダ車のディーラーと不動産業を営む東証二部の「松佳(現バナーズ)」を買収。さらに宮入バルブ製作所の株も仲間を糾合して買い集め、買占めに反対する経営者側と攻防戦を展開した末、臨時株主総会で社長を解任、乗っ取りに成功した。昨年、大物仕手といわれた西田晴夫が大阪地検に相場操縦で逮捕されたが、バックに畑崎氏がいたのではないかと噂されたほどだ。
人工島建設はお伽噺か
千年の杜も畑崎氏と彼の仲間による株価吊り上げと見られている。
「横田氏は社長に就任したものの有効な再建案が浮かばない。思いあぐねた末、昨年秋に知人の“小林幸子似の美人”を通して久間元防衛相に相談したところ、通した人物がよかったからか、即座にソチに人工島を建設するプロジェクトを伝授されたそうです」(関係者)
昨年秋といえば、守屋武昌前防衛事務次官と防衛商社・山田洋行の防衛省汚職事件の渦中で、久間センセイの関与があったかなかったかが取り沙汰された時期だ。久間センセイは騒ぎが拡大した最中に心臓手術で入院したが、ひょっとすると病室のベッドの上で人工島建設構想を練っていたのかもしれない。
センセイが露日経済協議会や露日投資フォーラムで「プーチン大統領から地震の多いソチでの人工島建設は日本の技術が必要と要請された」「ロシア側はアラブ首長国連邦のドバイのような人工島リゾートを望んでいる」と披露し、「人工島建設は日露友好に役立つ」と強調したのも、自ら千年の杜の“広告塔”を買って出た行為といえそうだ。
久間センセイはタイ・バンコクを拠点とする日本向け投資ファンドに出資していたのが暴露されたばかりだ。加えて、兜町ではセンセイ自ら売買注文を出して投資にいそしんでいると語られるなど、「株の玄人」と“尊敬”されている。人工島計画の発表で株価が暴騰した千年の杜でもおそらく一儲けしただろうと証券マンから羨ましがられている。
ところで、千年の杜による人工島のリゾート建設計画は実現の見通しがあるのだろうか。
事業計画原案作成を請け負った大手設計事務所の久米設計に聞くと、
「いえ、人工島建設工事の設計を請け負ったわけではありません。千年の杜と現地で埋め立ての許可を持っているというホマル社から資料をいただき、人工島にどのような施設を作ったらよいか完成模型や完成予想図を描いただけです。現地には景色を見るために訪れましたが、あくまで千年の杜が検討している人工島建設計画の資料程度のものです」
露日投資フォーラムで祝賀レセプションの主催者となったのも、仕事を受注した関係で裏方としてお手伝いしただけに過ぎないという。壮大な人工島リゾート計画がなにやら怪しくなりそうな雲行きなのである。
「人工島のことは話したくない」という久間センセイに代って、千年の杜の関係者がこういう。
「埋め立ての調査など具体的なものは何もしていませんが、人工島建設には二百億円、リゾート施設まで含めて二千億円くらい必要だろう、と当てずっぽうで金額を弾き出し、それが発表されているだけです」
そのうえ、先日、元運輸省海上技術安全局長で、退官後、新進党から参議院議員に当選し、一期務めた戸田邦司氏を人工島建設のために顧問に迎えたと発表し、権威づけを図ったが、本人から「就任を決めたわけではない」と抗議されて撤回したりしている。実は人工島建設より株価対策の方に余念がないようなのだ。
「四十六億円もの赤字を出している千年の杜に人工島をつくれるとは思えませんよ。お伽噺でしょう。今の株式市場は値下がりするばかりで夢がない。そんな中で人工島建設というお伽噺を語ったのが千年の杜。久間元防衛相の登場で株価が暴騰し、株を買い占めていた仕手筋は相当の儲けを出したはずです」(関係者)
だが、この手のお伽噺こそ株価操作ではないのか。兜町で久間センセイと仕手筋が組んだ株価暴騰劇と言われるのも仕方がない。
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