三菱自動車 繰り返された背信行為
三菱自動車が、軽自動車4車種、計62万5000台で、燃費性能を実際より良く偽っていたことがわかった。2000年と04年に明らかになったリコール(回収・無償修理)隠しに続く、3度目の背信行為だ。経営危機をようやく脱し、再建のめどがついたところでの不正である。信頼失墜は避けられず、三菱自の経営は再び瀬戸際に立たされそうだ。
三菱自は死亡事故も引き起こした2度の大規模なリコール隠しで経営危機に陥った。三菱重工業や三菱商事、三菱東京UFJ銀行の増資などの支援を受けて再建を進めた。豪州の工場閉鎖や欧州からの撤退、車種の削減などに踏み切り、13年度に累積損失を解消した。
燃費性能を偽った軽はこの年に発売された。再建策の一環だった日産自動車との提携・共同開発が実を結んだ「戦略車」でもあった。日産は減税の恩恵で好調な軽を販売車種に加えられ、販売網が傷ついた三菱自は生産台数を増やして収益を確保できるのが利点だった。
軽は、国内での自動車販売の4割程度を占める人気だ。維持費の小ささと燃費の良さが魅力で、燃費がいいほど減税幅も大きく、各社は激しい開発競争を続けている。三菱自の開発部門はそうした要求を強く意識せざるを得ない中で、不正に走ったようだ。スズキやダイハツ工業に比べ、出遅れが否めない焦りもあったとみられる。
問題の軽の中には「クラス最高水準の燃費性能」とうたった車種もあり、日産向けの約47万台を含め計62万5000台が売れた。しかし、実際はカタログに比べ5〜10%燃費が悪く、購入者は期待したより多くの燃料代を負担していたことになる。
三菱自は購入者に何らかの補償を検討するほか、本来は対象にならないエコカー減税で国や地方自治体の税収を減らしていた場合は、穴埋めする考えだ。また、軽以外の全車種にも不正がないかを調べ、外部有識者による調査委員会を設けて全容解明に取り組む。現段階では「不正は担当部長の指示」と説明しているが、組織的な関与がなかったのか、厳しい調査が求められる。
過去のリコール隠しは内部告発で発覚したが、今回の不正は日産に指摘されるまで把握できなかった。また、昨秋には新型車開発の担当部長2人を退職させ、新車の投入を延期する問題も起きている。「計画通りに開発が進んでいる」と上司に虚偽の報告をしていたという。
自浄作用や社内の意思疎通が失われていたとしたら、三菱自の抱える問題の根は深い。不正はそうした組織全体に広がる問題の一端に過ぎないのかもしれない。