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オバマのサウジ訪問、裏で散る火花 米国内の保有資産を売却と“恫喝”

佐々木伸 (ささき・しん)  星槎大学客員教授

共同通信社客員論説委員。ベイルートやカイロ支局長を経て外信部副部長、ニュースセンター長、編集局長などを歴任。

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機密化された28ページ

 ことの発端は2002年に遡る。ニューヨークの世界貿易センタービルに旅客機を突っ込ませて約3000人を殺害した2001年の9・11の後、上下両院の超党派調査委員会が情報活動の欠陥を調査、1年後に838ページに上る報告書を公表した。

 しかし、9・11の実行犯19人をサウジ当局者が資金援助したという疑惑に関する28ページ分は時のブッシュ政権下で機密扱いとされ、公表がストップされたままだ。犠牲者の家族らが再三に渡って機密扱いの解除を求めてきたが、実現していない。

 この議会調査委員会とは別の公式な9・11委員会は2004年、報告書を発表した。報告書はこの中で疑惑について「サウジ政府ないしはサウジ高官が関与した証拠はなかった」と言及したが、あえて「高官」としたところに疑問が集中、低レベルの当局者の関与があったとの疑惑が逆に高まった。

 サウジアラビアはアジア重視を決定したオバマ政権が中東を見捨て、軍事的なプレゼンスを縮小しつつあることが面白くない上、サウジの猛反対を押し切ってイランとの核合意を達成したことに不信感を深め、米国の傘を抜け出して自主防衛路線への傾斜を強めている。

 “サルマン・ドクトリン”と呼ばれるこのサウジの強硬方針はサルマン国王の息子で、副皇太子のムハンマド国防相の意向が色濃く反映されていると見られている。このドクトリンの下、サウジは米国の反対を押し切って隣国のイエメンに軍事介入し、新年早々、反体制シーア派の著名な聖職者を処刑し、イランと断交した。

 オバマ大統領は今回の訪問で、サウジ側の対米不信を解消し、イランとの共存を働き掛けるつもりだったが、9・11テロへの関与疑惑を追及する議会の動きを心配するサウジ側の懸念を和らげることに相当の時間を取られるのは確実だ。もっともサウジ側はオバマ大統領の任期が残り少ないことを織り込み済みで、その目は「オバマ以後」にしっかり向けられているようだ。

  
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