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検分
「失礼いたします。よろしいでしょうか」
村長が再びやってきた。
「ああ、かまわない。何用だ」
いかんな。どうも態度が尊大になってしまう。
というより、村長がへりくだりすぎなのだ。
俺なんか一介の高校生にすぎないのに。
まあ、高校生といってもここでは通じないか。
ただの一般人、通りすがりの村人、しかもLv2である。
「盗賊の装備を集めましたので、確認をお願いします」
デュランダルの力を借りて盗賊たちをバッタバッタと屠ったから、警戒もあるのだろう。
返す刀で村民にまで暴力を振るわれてはたまらない。
さりとて村を救ってくれた恩人に何もしないわけにもいかず。下手に冷たく接すれば報復もありうる。
村長の立場から俺を見れば、俺はさぞ厄介な存在だろう。
したてに出て、いなくなってくれるのを待つ、という作戦なのか。
「分かった」
とは言ってみたものの、分かっていない。
確認ってなんだ?
装備品を俺のものにしていいのだろうか。
俺が倒した盗賊の装備だから、俺のものにしてもよさそうではある。
力のあるやつなら、村人が下手にくすねでもしたら暴れかねないし。
「こちらです」
「装備品は俺のものにしていいのか?」
村長の後をついていきながら尋ねた。
「はい。ミチオ様が倒された盗賊の装備は、当然ミチオ様のものです」
「そうか」
盗賊の装備品は倒した者がもらっていいようだ。
現代のように警察や司法が発達した社会でなければ、普通のことなのだろう。
「今回、わたくしども村民は二人の賊を倒しました。つきましては、その二人分の装備品は倒した村人に分け与えていただきたいのですが」
村民は二人しか盗賊を倒してないのか。
そういえば、村人と盗賊はちまちまと打ち合っていただけだ。
デュランダルを使った俺はほとんど一太刀だったのに。
「分かった。かまわないだろう」
この世界の慣習も分からないし、提案を受けることにする。
おそらく、戦いに勝てたのは俺のおかげだから、全部俺のものだとごねることも可能なのだろう。
しかしそれはやらない方がいい。
実際にはこっちは村人Lv2なのだ。今はデュランダルもないし、村民全員で本気でかかってこられたら危ない。
「ありがとうございます。村民に成り代わりまして、お礼を申し上げます」
さすがにLv2の俺に対して取る態度ではない。
「気にするな」
おそらく、鑑定はボーナススキルだから、村長やこの村の連中には使えないのだろう。
村民から見ると、俺のレベルは30以上くらいに思えるのではないだろうか。
村民がほとんど互角だった盗賊をなぎ倒したわけだし。
村民の中で最高レベルの村人Lv25は盗賊の頭目にやられているから、村民の中で俺にかなうやつはいないことになる。
であればこそ、ここまでへりくだっているのだろう。
村長に連れられて出た村はずれの一角に、盗賊の装備品が置かれていた。
一人の男がそばに立っている。
ビッカー 男 31歳
商人Lv6
装備 木の鎧 皮の靴
今朝ほど見た商人かな。
「こちらはビッカーと申しまして、村でただ一人の商人です」
「ビッカーと申します。このたびは村や私どもを救っていただき、感謝の念に耐えません」
「ミチオだ。あまり大げさにするな」
感謝されるのは嬉しいが、会う人ごとにやられてもうざいだけだしな。
「かしこまりました。こちらが盗賊たちの装備品になります」
置かれている装備品を確かめた。
皮の鎧 胴装備
皮の靴 足装備
銅の剣 両手剣
どれも普通の装備みたいだ。
「××××××××××」
「おお、そうですか。盗賊を倒した村人も喜びましょう」
「かまわん」
俺が二人分の装備品を要求しないことを村長が商人に話したようだ。
ブラヒム語でやってくれればいいのに。
「ミチオ様は、空間はあまっておられないのでしょうか」
商人が問いかけてくる。
「空間?」
やべ。
早くも知らない用語が。空間があまっているってなんだ?
「私のブラヒム語がつたないでしょうか。装備品などを収める空間でございます」
「……多分、あまってない、と思う」
分からん。ここに置くスペースじゃ足りないのか?
「ミチオ様は冒険者ではないのですか」
「いや、まあ、そのようなものだが」
冒険者に特別な定義があるのだろうか。
早くも化けの皮がはがれてしまった。
「冒険者のようなかたであれば、アイテムや装備品などを収納する空間を作る空間魔法スキルが使えるはずでございます。先ほどまで持っておられた剣を収納している空間に、空きはございませんでしょうか」
村長が助け舟を出す。
そうなのか。便利そうだ。
インベントリとか道具袋とかアイテムボックスみたいなものか。
デュランダルはキャラクター再設定で消えた。
村長から見れば、どこかの空間に入れたように見えるのだろう。
「インベントリのことかな」
「インベントリというのですか」
「インベントリ、オープン。アイテムボックス、オープン。道具袋。アイテムスペース……オープン……」
小声でつぶやいてみるが、何も起こらなかった。
呪文が違うのか。あるいは覚えていないのか。
いずれにしても今の俺には使えそうにない。
村長と商人の目が冷たい、ような気がする。
変なことをぶつぶつとつぶやいている俺の姿は、客観的に見れば相当に痛い。痛すぎる。
完全に中二病患者だ。
し、鎮まれ、俺の左手。
「……いかがでございましょう」
「残念ながら、空間はいっぱいのようだ」
本当は使えないのだが、使えないというと、デュランダルをどこにやったのかという話になるしな。
というか、デュランダルはどこへ行ったんだ?
「私は明日の明け方、商品の仕入れのためにベイルの町までまいります。よろしければ、装備品を荷馬車に乗せて町まで運びましょう。ベイルの市場ならば武器屋も防具屋もございます。市でお売りになられればよろしいでしょう」
商人が申し出る。
装備品をこの商人が買い取ってくれるのかとちょっと期待したが、違ったようだ。
そんなことをされても中間マージンを取られるだけか。
「それはありがたい。そうさせてもらおう」
装備品は、売らずに自分用に流用するのもありだろう。
皮の鎧と皮の靴を一つずつ。
折れることがあるかもしれないので、銅の剣は二本にしておくか。
鉄の剣 両手剣
頭目が持っていた鉄の剣があるが、どうしよう。
銅の剣よりもワンランク上の装備なのだろうが。
いいものを持っていても盗まれたり狙われたりするだけだからな。
別にレアな装備ではないみたいだし、これは売るか。
「こちらが盗賊たちのインテリジェンスカードでございます」
商人がメモ帳サイズのカードを出してきた。
「インテリジェンスカード?」
なんだ、それ?
オウム返しに訊いてしまう。
「盗賊の中には懸賞金がかけられていた者もいるはずでございます。これをベイルの町の騎士に差し出せば、懸賞金がいただけるでしょう」
「なる、ほど」
話自体は分かった。
盗賊が跋扈している世界なら、懸賞金は有用だろう。
カードは、盗賊を倒した証明になるようなものか。
この世界では誰でも知っている常識的な事柄のようだ。
あまり変に思われてもまずい。
俺は、カードを受け取ると、変にジロジロ見たりせず、受け取るだけに済ます。後は装備品をチェックしているように振る舞った。
銅の剣 両手剣
銅の剣 両手剣
装備品を見ていくと、一つ変なものがある。
銅の剣 両手剣
スキル 空き
スキルというのは、デュランダルにもついていた。
「何かございましたか」
剣を手に持った俺に、商人が目ざとく訊いてくる。
空きというスキルがあるのではなくて、スキルスロットがあいているのだろう。
「これはよい品のようだ」
「お分かりになるのですか」
もっとも、スキルをどうやってつけるのかは知らない。
「スキル。スキルスロット。スキル付与。スキル操作」
またぶつぶつとつぶやいてしまった。
何も起こらない。
何も変わらない。
というか、つぶやいて何かを起こせたことってないよな。
鑑定もキャラクター設定も念じるだけだ。
「鍛冶職人がモンスターカードを鋳造するとスキルがつく場合があると聞いたことがあります。その剣に何かスキルがついているのでしょうか」
「いや。ついてはいないな」
「さようでございますか」
スキルをつけるには特定のジョブが必要なようだ。
モンスターカードというのは何だろう。
「しかしこの剣は悪くない。俺の差料にしよう」
「スキルがついているかどうか、お分かりになるのですか?」
村長が訊いてくる。
「だいたいだがな。冒険者の勘というやつだ」
鑑定はボーナススキルだから、持っている人は少ないだろう。
自分が持っていると言いふらすことはない。
「先ほど申し上げた元冒険者の村人、彼が使っていた剣がございます。それを見てはいただけないでしょうか。よい物ならば、残された者たちの暮らしも楽になりましょう」
「俺に分かることであれば」
「ありがとうございます。早速、持ってまいりましょう」
村長が立ち去った。
俺はその後も装備品を見ていく。
他にスキルやスキルスロットのあるものはないようだ。
鉄の鎧 胴装備
バンダナ 頭装備
頭目の装備品だったこの二つも同様だ。
あれ?
頭目の装備って、バンダナだったか?
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