Fumiya Tanakaのこれまでの活動はどちらのタイプにもあてはまる。10年間こだわりのテクノトラックを制作した後にソフトなサウンドを扱うようになった彼は、それ以来、メロディを多分に含んだ深みのある"Für Elodie"や、ラテンの要素を落とし込んだサマージャム"I Can Tell You Of Course i Know It Was"、海中で意識を融解させるような"What's That Called Water? (Dub)"、そしてその中間に位置するあらゆるサウンドを発表してきた。彼の作品の大部分は取り立てて派手なわけではなく、とりわけ使い易いわけでもない。Tanakaのトラックは、しっかりと考えず適当にプレイできるようなものではない。トラックの多くに漂う暗然とした雰囲気はピークタイムに適しているとは言えず、キックがハッキリと打ち込まれているトラックもほとんどない。彼のトラックを最大限に活かすにはDJとしての技量が必要になるが、上手くプレイすれば素晴らしい効果がもらたされる(長時間に及ぶパーティーの最後にプレイされた"Fumiyandric 1"を運よく体験したことがある人にはこの意味が分かるはずだ)。
TanakaにとってPerlonから初となるアルバム『You Find The Key』にも同じことが言える。これはDJのための作品だ。制作に数年を費やしたというトラックの多くは7~12分の曲長でヴァイナルの片面を埋め尽くしている。最近のエレクトロニックミュージック・アルバムによくあるアンビエントのインタールードは収録されておらず、どのトラックもクラブ仕様でイントロとアウトロ部分がミックスしやすくなっている。Tanakaがこれまで発表してきた作品のほぼすべてと同じく、一貫して暗鬱とした感覚が漂っているが、巧みなドラム使いとキャッチーなボーカルで中和されている。例えば"Swallowed Memory"では打ち込まれるキックが不気味なシンセと声の断片に組み合わされている。素晴らしいビートレストラックになっていてもおかしくなさそうなサウンドだが、Tanakaのパーカッション使いによりアフターアワーズに映えるトリッピーなトラックに仕上げられている。"Love Keep Mapping The Head"と"The Only Your Researching"はファットなベースラインに歯切れのいいスネアとスウィング感を組み合わせた使い勝手のいい2曲だ。もうひとつのハイライトである"The Mysterious Pocket Is Right"は『You Find The Key』で最も伝統的な仕上がりで、Tanakaが最もディープハウスに接近したトラックとなっている。
全体的に『You Find The Key』からはVillalobosの影響がうかがえる。とりわけ声の使い方にそれが顕著だ。声の断片はほとんど何を言っているのか分からないが、そうした色付けがなければトラックは陰鬱とした雰囲気になっていただろう。Villalobosという先例がなければ、このアルバムは誕生しただろうか? 答えはノーだ。しかし、Tanakaの独自性はミニマルにおいて忘れられつつある小さな領域にある。その領域では意識を圧倒することと踊ることが等しく重んじられているのだ。
- 掲載日 /
Thu / 21 Apr 2016 - 文 /
Matt Unicomb - 翻訳 /
Yusaku Shigeyasu - Tracklist /
01. Munique Uncertain
02. Got To See You
03. Find The Key 2012
04. Swallowed Memory
05. The Mysterious Pocket Is Right
06. The Only Your Researching
07. Cinematicorc
08. Love Keep Mapping The Head
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