ウーゴ・デュモントさんは博物館によく出かけるという、すこぶる健康な34歳の男性だ。そのデュモントさんが、ボタンを1つ押すだけで、白内障と緑内障と耳鳴りを患う85歳の当惑した様子の老人へと変身した。
デュモントさんは4月5日、科学博物館Liberty Science Centerにおいて、コンピュータ制御の外骨格スーツの装着体験に名乗りを上げ、数十年先の老化体験を周りの人たちと共有した。遠隔操作によって関節の衰弱や視力・聴力の低下をシミュレートできる全身型のボディスーツだ。
ヘッドフォンが難聴を再現し、ゴーグルが黄斑変性症による視野狭窄を再現するほか、スーツの接合部を調整することで関節リウマチによる手足のこわばりも再現される。さらにこのスーツは重さが約18キロあるので、デュモントさんは老化に伴う体重増加の感覚も味わうことになった。
“ビーチを散歩”というタイトルの動画が流れる画面を目の前に、デュモントさんは「フゥ」と息を切らしながらランニングマシンの上を歩いた。背中のバックパックには、制御盤と連動するコンピュータが内蔵されている。スタッフがこの制御盤のボタンやレバーを動かし、老化のレベルを引き上げると、デュモントさんの脈拍は毎分81から100へと高まった。
「海を見る余裕なんてない。とにかくベッドに横になりたいよ」とニューヨークのブルックリン近郊に住む写真エージェントのデュモントさんは語った。
この体験プログラム「Genworth Aging Experience」は、博物館の訪問者が老化の感覚をじかに体験できるよう、保険会社のGenworth Financialがデザインエンジニアリング会社Applied Mindsと共同で開発した巡業型のプログラムだ。
このデモンストレーションでナレーターを務めたGenworthのブランドアンバサダー、キャンダス・ハマー氏は、「この体験プログラムの狙いは、高齢者が日常生活で直面するさまざまな難題について共感と認識を深めることにある」と語る。例えば、関節がこわばって朝食用シリアルを棚から取り出せなかったり、騒々しいレストランで誰かに話しかけようとしても、失語症として知られる神経変異疾患のせいで頭の中をさまざまな言葉が飛び交い、話したい言葉が思うようにでてこなかったりなど、高齢者はさまざまな不快症状を抱えている。
米国では全人口の4分の1近くにあたる7500万人のベビーブーム世代が退職の時期を迎えつつある。老化症状を体感し理解することは、最終的には、そうしたベビーブーム世代とその家族が長期治療や医療費について話し合うきっかけになるかもしれない。長期医療看護保険を販売するGenworthは声明でそう述べている。
「私たちの文化では、若さや美しさが良しとされる。この体験プログラムは、老化について家族と会話するきっかけを提供する。介護が必要というのは恥ずかしいことではない」とGenworthのハマー氏は語る。
このスーツを装着しても、体感できる老化症状には限界がある。関節リウマチの痛みや排尿のトラブル、アルツハイマー病や認知症に伴う精神症状、その他老化に伴うさまざまな不快感まではシミュレートできないからだ。
それでも、老化が身体に与える影響をごく一部でも体験することは、ボディスーツを装着した本人だけでなく、周りの聴衆にも大きな影響を及ぼしている。
元出版社幹部で現在は引退しているニュージャージー州マディソン在住のロバート・リチャーズさん(74歳)は、年上のゴルフ仲間の動作がなぜゆっくりなのかをこれで理解できたという。
「これからは彼らがスイングするのをもっと辛抱強く待つことにする。“もっとさっさとできないものか”と思うこともあるのだけれど」と、自身も人工股関節置換手術を受け、部分難聴で、コンタクトレンズを使用しているというリチャーズさんは話す。
リチャーズさんと一緒に博物館に来ていた孫娘のマギー・リチャーズさん(8歳)も、この展示を「すごくクール」だと感じ、自分も態度をあらためるつもりだという。
「お年寄りのことを変な人扱いする人もいるけれど、でもお年寄りには周りの人たちが見えなかったり、周りの声が聞こえていなかったりするのね。私もお年寄りにはゆったりと接するようにする。これからは“どいて!”じゃなくて“ちょっとどいてもらえますか”と言うようにするわ」とマギーさんは話している。
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