【石坂浩二 終わりなき夢】(8)子供飽きさせないコツは
劇団四季にいた時、「王子とこじき」の台本を手掛けた。今でも上演されていて、基本的な構成は変わっていない。子供ミュージカルの最初は「はだかの王様」で、その後「王様の耳はロバの耳」「イワンのばか」と続いた。イワンの兄弟が“茶碗(わん)にお椀”というように、あまりに子供向けの内容で、その辺りは浅利さんも気づいていて「大人が楽しめるものでないと、子供も楽しめない。お前が新しいのを作れ」。
私も興味があった。子供は正直で簡単な演出だと飽きて劇場を走り回るが、歌や照明が美しいとじっと見る。そこで考えた。王子が馬に乗ろうと必死で走るシーン―。馬がパカパカと走る後ろで、大きな回転台でぐるぐる回す紙芝居を作っておくと、本当に走っているようになる。この仕掛けを丸ごと見せたり、照明で夜や月を演出したりすると、子供たちは目を凝らしていた。
このミュージカルはNHK教育テレビが放送してくれた。NHKは不思議な局で、ニュース番組の素材は残しておくけど、昔のドラマのビデオは残っていない。なぜかこの舞台のビデオは一部ではあるが奇跡的に残っていた。教育テレビとは縁があり、若い頃から子供向けドラマの台本や海外作品の翻訳に携っている。最近では放送中の「シャキーン!」の一つのコーナーでナレーションで参加していた。
絵本の翻訳は74年に二科展に初めて入選したのがきっかけだ。初入選組に日航の社員がいて、そのお姉さんがブライアン・ワイルドスミスという絵本画家と知り合いだった。彼女が原画を買い取って伊豆高原に美術館をつくり、私がそこの館長の依頼を受けたのだ。美術館に来た人がお土産で絵本を買えるようにと思い、翻訳に取り組んだ。
「マザーグース」はその一冊で、日本では谷川俊太郎さんらが完本を出版している。どれも英語の韻を踏むような訳にこだわっていたが、日本で韻を踏むのは漢詩だけで、私はそれを捨てた。ほとんどの本が昔の訳を踏襲していて、私が一番疑問に思った訳は「ジョンはピッグを盗んで逃げた、そして、ピッグを食べた」―という一節だ。どう考えても少年が横丁で豚を食べないだろうし、英国はローストビーフで豚を食べるイメージはない。英大使館に問い合わせたところ「本国に確認する」。2週間後に大使館に出向くと「ピッグは18~19世紀、ロンドンで売られていた人気のビスケット」と説明を受けた。やはり豚ではなかった。でもスミス先生の絵は豚だ…。考えた末、ビスケットではなく豚まんと訳すことにした。一度、英文学者がしっかり調べた「マザーグース」の本を読みたいと思う。
◆フリーアナウンサー・徳光和夫さん(親交の深い同級生)「人のことを『涙もろい』と言うけど、兵ちゃん(石坂浩二)ほど涙もろい人はいない。なかなかはい上がれない人がステップアップしたときには、ぼうだの涙を流す。別当薫に憧れて慶応義塾大学を受けて、そんじょそこらの阪神ファンではない。私も完膚なきまでに痛めつけられたりする。本当に芝居がうまくて、役者として“先発完投型”から、うまく“技巧派”に変わった。江夏(豊)を見ているよう。いい年して改革魂も持っている。若さの原点。これが石坂浩二の憎たらしいところ」