[データサイエンティストの思考法〜KDD Cup世界第2位の頭の中〜]
データを“武器”にするためのビジネス思考とは【第6回】
2016年4月21日(木)加藤 亮(金融エンジニアリング・グループ(FEG)コンサルティング本部 第1部 第1グループ 主任コンサルタント) 本橋 智光(新日鉄住金ソリューションズ(NSSOL) ソリューション企画・コンサルティングセンター エキスパート 兼 技術本部 システム研究開発センター データ分析・基盤研究部 主務研究員)
筆者らの分析チームは、「KDD Cup 2015」というデータ分析の国際大会で2位に入賞しました。前回までは、この競技を題材にしてデータサイエンティストの思考法を紹介してきました。今回は、企業がビジネスのために取り組むデータ分析に注目し、競技との違いから、企業のデータ活用における思考法を整理してみます。
前回まではKDD Cupを題材に、筆者らがモデルを構築する過程での思考プロセスや組織マネジメントについて紹介してきました。しかし筆者らは、普段はデータ活用やデータ分析、そのためのIT基盤の構築といったIT関連ビジネスに携わるコンサルタントや研究者です。そうしたビジネスのためのデータ分析と競技時のデータ分析には何か違いがあるのでしょうか。
KDD Cupのような競技では、モデルの精度だけで優劣が決まります。これに対しビジネスでは収益の最大化が求められるわけですから、競技とは異なる思考が求められます。ビジネスのために日々、データを分析している筆者は、たまに競技に参加すると、そのシンプルさをとても心地よく感じることすらあります。両者が異なる証左と言えましょう。
ビジネスではどのような思考がポイントになるのでしょうか?以下では、ビジネスと競技を比較しながら、ビジネスにおけるデータ活用の特徴について考えるとともに、これからのデータ活用ビジネスを展望してみようと思います。
既存データさえビジネスの“武器”として活用できていない
最近の各種ニュースでは、「ビッグデータ」「IoT(Internet of Things:モノのインターネット)」「人工知能」といったキーワードをよく見かけます。背景にはセンシング技術やストレージ技術の革新により多様なデータが活用できるようになったことが挙げられます。
これまでビッグデータといえば、米Googleや米Yahoo!のような巨大なインターネット企業の取り組みが想起されました。しかし今では、例えばドイツ政府が「Industrie4.0(第4次産業革命)」をいち早く提唱し、データを武器として活用することで製造業の生産性を向上させるという戦略を打ち出しています。
これに対し国内でも、データ活用に関連する動きが活発化しています。産業技術総合研究所が2015年7月に人工知能研究センターを設立したのに続き、同年10月には総務省と経済産業省がIoTによる新ビジネス創出を推進するIoT推進コンソーシアムを設立しました。安倍首相は2016年初頭の施政方針演説で「IoTや人工知能を国として取り組む」と明言しています。
民間企業でも、トヨタ自動車やリクルートを筆頭に人工知能研究所の設立が相次いでいます。グローバルな競争に乗り遅れまいとする国や企業の切迫感が感じられます。今後は、日本が得意としてきた製造業をはじめ、各業種でのデータ活用が本格化するでしょう(関連記事『データ分析が導く製造業の変革』)。
多額の投資が集まりだしたデータ活用分野ですが、国内企業では実際、どの程度までデータを活用できるようになってきているのでしょうか。総務省が発行する『情報通信白書』から興味深い知見が得られます。
多くの企業は、従来から社内に蓄積してきた「顧客データ」や「経理データ」などについては分析に活用しています。ですが「GPS(Global Positioning System)データ」や「センサーデータ」など、IoTの文脈で語られる膨大なログデータの活用は、これからといった状況にあるようです(図1)。
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筆者らもデータの活用状況について顧客企業などにヒアリングする機会が少なくありませんが、IoTがらみのデータだけではなく、従来から存在するPOSデータなどについてさえ“武器”として活用できている企業はごく少数という印象があります。「データはあるけれど、上手く活用できていない」というのが、多くの国内企業の実態ではないでしょうか。
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