井山本因坊7冠 新時代開く偉業を祝う
歴史と伝統を誇る囲碁界に、うれしいニュースが飛び込んできた。
井山裕太(いやまゆうた)本因坊(26)が、十段戦五番勝負で伊田篤史(いだあつし)十段(22)を制し、本因坊、棋聖、名人、王座、天元、碁聖、十段の7タイトル全てを獲得する前人未到の7冠に輝いた。
囲碁界にとってはまさに夢の実現であり、新時代を切り開く若い棋士の偉業を心より祝福したい。
「7冠は究極の目標だが、一つ負けると(次の挑戦まで1年かかるため)ものすごく遠のき、難しい部分がある。ここ数年の経験と反省を踏まえて少しでも近づきたい」。井山さんはそう決意を述べていた。
過密スケジュールの中で、体調を整え勝ち続けるのは容易なことではない。十段戦の挑戦者決定はトーナメントで一発勝負の怖さがあった。
史上初の6冠独占を果たしたのは2013年。一時は4冠に後退したが、昨年二つのタイトルを奪還して3度目の6冠に就き、ついに若手の代表格に競り勝った。
7冠同時制覇の高みに立った今、次は何を目標に見据えるのだろう。
井山さんは東大阪市出身。中学1年で初段、プロデビューすると、20歳4カ月で最年少名人となるなど、次々に記録を塗り替えてきた。
9歳当時の井山少年と対局したことのある本紙記者は、盤上から決して目をそらさない、勝負師の表情に驚いたと振り返る。
特筆すべきは、インターネット碁対局を修業時代に繰り返したことである。師匠の石井邦生九段によると、入段までに1000局は打ったという。ネット時代の申し子なのだ。
井山さんの強さは、打ちたい手を打ちながら、劣勢になっても追いつき、流れを呼び込む粘りにある。
「連敗はしない。気持ちの切り替えがうまくできているのだと思う」と本人も自己分析している。
他方で、素顔の井山さんは敗者をいたわり、対局で宿泊した旅館やホテルの関係者らにも感謝を忘れない謙虚さを持ち合わせている。
囲碁界は近年、若手の台頭が著しい。伊田十段や一力遼(いちりきりょう)七段(18)ら、漫画「ヒカルの碁」で育った世代が続々と現れている。井山さんが年下と戦う機会は、今後もっと多くなるだろう。
7冠をどこまで守るか、中国や韓国との国際棋戦でも活躍できるのか。囲碁ファンならずとも興味は尽きない。5月からは本因坊戦が始まる。さらに人工知能(AI)が囲碁や将棋の世界を揺さぶる。
将棋界では、1996年に7冠を達成した羽生善治(はぶよしはる)名人(45)が現在も4冠を保持し、先導役を果たしてきた。囲碁約4000年の歴史をどう未来へ継承するか。井山さんの次の挑戦に期待したい。