熊本地震は九州新幹線を直撃した。熊本市内で回送列車が脱線したほか、高架橋の亀裂や防音壁の落下といった損傷が約150カ所にのぼった。鹿児島中央―新水俣間はきのう運転を再開したが、博多までの全線が復旧するめどは立たない。

 半世紀を超す新幹線の歴史で、地震による脱線は04年の新潟県中越地震と11年の東日本大震災に続いて3回目になる。

 今回脱線したのは、最大震度7の地震が起きた14日夜だ。時速80キロ程度で走っていた列車が揺れに見舞われ、全6両が脱線した。幸い乗客はおらず、運転士にもけがはなかった。もし高速で営業運転中だったら、大惨事になっていた恐れもある。

 多数の乗客を高速で運ぶ新幹線の安全確保は、とりわけ重要だ。JR各社はこれを機に過去の対策を総点検し、いっそうの安全向上をめざすべきだ。

 新幹線には地震の初期微動を検知して列車を止めるシステムがある。しかし、今回のように震源が近い直下型地震では間に合わない。その限界があらわになった中越地震の後、各社は地震で揺れても脱線を防ぐ装置の整備に力を注いできた。

 JR九州は、九州新幹線の上下線の1割超にあたる55キロに「脱線防止ガード」を敷く計画を進めてきた。ガードとレールで車輪を挟んで脱線を防ぐ仕組みで、48キロは設置済みだ。

 活断層があって激しい揺れが予想される区間を対象としているが、熊本の脱線現場は含まれていなかったという。

 ガードをどの区間に整備するかは、地震の危険度を踏まえ、各社が独自に判断してきた。

 JR東海は東海道新幹線の6割の596キロで整備を計画し、うち360キロは工事を終えた。山陽新幹線では昨年末までに110キロのガードが敷かれ、JR西日本はあと110キロ延長する予定だ。JR東日本と北海道も、形式が異なる脱線防止装置の設置を進めている。

 熊本の地震は、思わぬ場所で起きる直下型地震の怖さを示した。今の整備計画で大丈夫か。専門家の意見を聞くなど、いま一度確かめる必要がある。

 脱線防止装置の設置には1キロあたり億単位の金がかかる。深夜しか工事ができない制約もあるが、できる限り整備を前倒しすることも検討してほしい。

 東日本大震災では線路脇の架線柱が損壊した。今回も沿線の工場の煙突が倒れ、新幹線の線路をふさいだ。大地震は常に新たな「想定外」を突き付けてくる。教訓を引き出し、安全網を着実に強めていくしかない。