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【震災20年を見つめて】復興の裏側で…飛散したアスベスト
今週は「震災20年を見つめて」。
発生から20年を迎える阪神・淡路大震災について毎日、特集でお伝えします。
当時、がれき処理などに携わった人たちの健康被害が指摘されている「アスベスト」を取り上げます。
吸い込むと悪性中皮腫などを引き起こす「アスベスト」の潜伏期間は20年から40年、当時がれきの周りで暮らしていた人たちの発症が今まさに懸念されています。
【中野正明さん】
「神戸、三宮が良くなるのかと思うぐらい、被災が激しかった。それが二十年後こんなに復興するとは誰も思っていなかったのでは」
復興した神戸の町を感慨深く眺める、中野正明さん。
建設会社の社員として、震災で倒れた建物の解体工事に打ち込みました。
24万棟の家屋が全壊または半壊の被害を受けた阪神・淡路大震災。
そのおよそ一か月後から建物の解体が急ピッチで進みました。
街は、ほこりやアスベストで真っ白になりました。
【中野正明さん】
「『水を解体の時に撒け』というけれど、震災の時は水なんてないからね。今のダンプカーみたいに(がれきなどに)シートもかぶせず、そのまま積んで走っていた。アスベストはガラスが入っているのか痒くなる、首筋とか。周りの住民も埃やアスベストを吸ってますわ。吸わない方がおかしい」
熱に強く値段も安いため、建物の断熱材などに多く使われたアスベスト。
しかし、繊維が肺に入ると針のように刺さり、咳や痰が止まらなくなります。
20年ほど経ってから、進行の早いガン「悪性中皮腫」などを引き起こし、その潜伏期間の長さから「静かな時限爆弾」と言われています。
健康だった中野さんが、ここ最近、ひどい咳や痰に悩まされるようになりました。
近く肺の精密検査を受ける予定です。
【中野正明さん】
「肺の中にガラスみたいなのが入っていると医師から説明された。肺がボロボロになってきているから手術できないと言われた」
震災から20年。
時限爆弾が作動したかのように、アスベスト被害が出始めています。
兵庫県内で震災のがれき処理に携わった5人が、相次いでアスベストが原因で中皮腫になり死亡しました。
わずか2ヵ月間、被災した建物の片づけのアルバイトをしただけの人も含まれています。
アスベストに触れる期間が短くても発症者が出たことから、住民への被害も懸念されます。
【ひょうご労働安全衛生センター・西山和宏事務局長】
「近くで解体作業が行われていて、周りの高齢者だったので自分が代わりに解体作業の立ち会いを引き受けていましたと書かれている」
アスベストの被害者を支援するNPO法人ひょうご労働安全衛生センターは去年8月から、神戸市など被害の大きかった地域の住民にアンケートを行いました。
すると、回答した2265人のうち、「震災アスベストによる健康被害が不安」と答えた人が52%にものぼりました。
<アンケート回答より>
「住人に対して健康診断を無料で早期に行っていただきたい」
「復旧を急ぐあまり、解体を急ぐ風潮がありました。水不足で解体したので粉塵がひどく、汚れた空気の中で歩いたことを覚えています」
震災がれきとの関連性ははっきりしませんが、回答者の1%にあたる22人もの人が中皮腫や胸膜プラークといったアスベスト特有の病気にかかっていると答えました。
【西山和宏事務局長】
「解体工事が急ピッチで進められましたけれど、アスベストがたくさん飛散したのではないかと考えている」
西山さんたちは住民から直接聞き取り調査も行いました。
【石丸良夫さん】
「解体するし、ほこりだらけ。タクシー会社で働いていたが、被害調査にずっと回った。車の中が真っ白ですよ」
長田区に住む元タクシー運転手・石丸良夫さん。
被災地を調査する保険会社の社員を乗せて、ほこりが舞う中を移動しました。
【石丸良夫さん】
「肺がんじゃないかと言われている。喘息は震災から1ヶ月、2ヶ月してから出始めた」
【兵庫県警の元警察官】
「(被災直後は)アスベストよりも、人を助けなあかんと。後からあの時、だいぶ吸ってるなと」
解体作業をしていなくても、アスベストを吸ったのではないかと健康不安を抱える人が存在します。
震災当時、国が神戸市などの空気中のアスベストの飛散量を調べた結果、基準値を下回っていました。
しかし、倒壊現場の近くでは大幅に基準を超えていたと専門家は指摘します。
【立命館大学・南慎二郎非常勤講師】
「(アスベストの飛散は)建材を崩す作業で局地的に瞬間的に発生する。民間の調査では、倒壊現場の近くだと(大気1リットルあたり)250本という高濃度のアスベスト繊維が存在したという結果が出ている」
アスベストの工場があった大阪の泉南地域や兵庫県尼崎市では、国が無料で周辺住民の肺をCTで精密検査する「健康リスク調査」を行いました。
震災の被害が大きかった自治体でも、X線を使った肺がん検診はあります。
しかし、西山さんたちは国のCTを使った無料の精密検査に参加するよう、被災した自治体に求めています。
【西山和宏事務局長】
「(県や神戸市などは)最初、レントゲン検査と聞いている。アスベストはCTで撮った方が発見がより詳しくなると言われている。国のやっているリスク調査が(神戸市などで)始まれば、大々的に宣伝もされる」
しかし、神戸市などはまず従来のX線検診で対応する考えです。
【久元喜造神戸市長】
「市民のみなさんから(震災アスベストに関する)問い合わせはほとんどない。新しく神戸市としてアスベストの対策を取る必要は、現時点ではないのではないかと考えている」
震災から20年目を迎える今、改めてアスベストの怖さを知ってほしい――。
西山さんたちは、神戸市で市民を対象としたシンポジウムを開きました。
【西宮市で被災した参加者】
「当時アスベストを知りませんでした。色んな話があって、将来が不安」
【芦屋市で被災した参加者】
「最近、咳や痰がからむのが結構あって、余計にこの問題が気になる」
【西山和宏事務局長】
「一人ひとりの市民の方がアスベストの危険性について認識を持ってもらって、自ら身を守ることを継続してもらいたい」
急激に進んだ復興の裏側で、街中に飛散したアスベスト。
住民の不安を解消するために、国や自治体は実態調査や健康管理をさらに進める必要があります。
阪神・淡路大震災から20年となる1月17日、特別番組を放送します。
震災で亡くなった人たちに思いをはせ、次の世代に記憶と教訓を伝えていきたいと思います。
http://www.ktv.jp/shinsai20/index.html
発生から20年を迎える阪神・淡路大震災について毎日、特集でお伝えします。
当時、がれき処理などに携わった人たちの健康被害が指摘されている「アスベスト」を取り上げます。
吸い込むと悪性中皮腫などを引き起こす「アスベスト」の潜伏期間は20年から40年、当時がれきの周りで暮らしていた人たちの発症が今まさに懸念されています。
【中野正明さん】
「神戸、三宮が良くなるのかと思うぐらい、被災が激しかった。それが二十年後こんなに復興するとは誰も思っていなかったのでは」
復興した神戸の町を感慨深く眺める、中野正明さん。
建設会社の社員として、震災で倒れた建物の解体工事に打ち込みました。
24万棟の家屋が全壊または半壊の被害を受けた阪神・淡路大震災。
そのおよそ一か月後から建物の解体が急ピッチで進みました。
街は、ほこりやアスベストで真っ白になりました。
【中野正明さん】
「『水を解体の時に撒け』というけれど、震災の時は水なんてないからね。今のダンプカーみたいに(がれきなどに)シートもかぶせず、そのまま積んで走っていた。アスベストはガラスが入っているのか痒くなる、首筋とか。周りの住民も埃やアスベストを吸ってますわ。吸わない方がおかしい」
熱に強く値段も安いため、建物の断熱材などに多く使われたアスベスト。
しかし、繊維が肺に入ると針のように刺さり、咳や痰が止まらなくなります。
20年ほど経ってから、進行の早いガン「悪性中皮腫」などを引き起こし、その潜伏期間の長さから「静かな時限爆弾」と言われています。
健康だった中野さんが、ここ最近、ひどい咳や痰に悩まされるようになりました。
近く肺の精密検査を受ける予定です。
【中野正明さん】
「肺の中にガラスみたいなのが入っていると医師から説明された。肺がボロボロになってきているから手術できないと言われた」
震災から20年。
時限爆弾が作動したかのように、アスベスト被害が出始めています。
兵庫県内で震災のがれき処理に携わった5人が、相次いでアスベストが原因で中皮腫になり死亡しました。
わずか2ヵ月間、被災した建物の片づけのアルバイトをしただけの人も含まれています。
アスベストに触れる期間が短くても発症者が出たことから、住民への被害も懸念されます。
【ひょうご労働安全衛生センター・西山和宏事務局長】
「近くで解体作業が行われていて、周りの高齢者だったので自分が代わりに解体作業の立ち会いを引き受けていましたと書かれている」
アスベストの被害者を支援するNPO法人ひょうご労働安全衛生センターは去年8月から、神戸市など被害の大きかった地域の住民にアンケートを行いました。
すると、回答した2265人のうち、「震災アスベストによる健康被害が不安」と答えた人が52%にものぼりました。
<アンケート回答より>
「住人に対して健康診断を無料で早期に行っていただきたい」
「復旧を急ぐあまり、解体を急ぐ風潮がありました。水不足で解体したので粉塵がひどく、汚れた空気の中で歩いたことを覚えています」
震災がれきとの関連性ははっきりしませんが、回答者の1%にあたる22人もの人が中皮腫や胸膜プラークといったアスベスト特有の病気にかかっていると答えました。
【西山和宏事務局長】
「解体工事が急ピッチで進められましたけれど、アスベストがたくさん飛散したのではないかと考えている」
西山さんたちは住民から直接聞き取り調査も行いました。
【石丸良夫さん】
「解体するし、ほこりだらけ。タクシー会社で働いていたが、被害調査にずっと回った。車の中が真っ白ですよ」
長田区に住む元タクシー運転手・石丸良夫さん。
被災地を調査する保険会社の社員を乗せて、ほこりが舞う中を移動しました。
【石丸良夫さん】
「肺がんじゃないかと言われている。喘息は震災から1ヶ月、2ヶ月してから出始めた」
【兵庫県警の元警察官】
「(被災直後は)アスベストよりも、人を助けなあかんと。後からあの時、だいぶ吸ってるなと」
解体作業をしていなくても、アスベストを吸ったのではないかと健康不安を抱える人が存在します。
震災当時、国が神戸市などの空気中のアスベストの飛散量を調べた結果、基準値を下回っていました。
しかし、倒壊現場の近くでは大幅に基準を超えていたと専門家は指摘します。
【立命館大学・南慎二郎非常勤講師】
「(アスベストの飛散は)建材を崩す作業で局地的に瞬間的に発生する。民間の調査では、倒壊現場の近くだと(大気1リットルあたり)250本という高濃度のアスベスト繊維が存在したという結果が出ている」
アスベストの工場があった大阪の泉南地域や兵庫県尼崎市では、国が無料で周辺住民の肺をCTで精密検査する「健康リスク調査」を行いました。
震災の被害が大きかった自治体でも、X線を使った肺がん検診はあります。
しかし、西山さんたちは国のCTを使った無料の精密検査に参加するよう、被災した自治体に求めています。
【西山和宏事務局長】
「(県や神戸市などは)最初、レントゲン検査と聞いている。アスベストはCTで撮った方が発見がより詳しくなると言われている。国のやっているリスク調査が(神戸市などで)始まれば、大々的に宣伝もされる」
しかし、神戸市などはまず従来のX線検診で対応する考えです。
【久元喜造神戸市長】
「市民のみなさんから(震災アスベストに関する)問い合わせはほとんどない。新しく神戸市としてアスベストの対策を取る必要は、現時点ではないのではないかと考えている」
震災から20年目を迎える今、改めてアスベストの怖さを知ってほしい――。
西山さんたちは、神戸市で市民を対象としたシンポジウムを開きました。
【西宮市で被災した参加者】
「当時アスベストを知りませんでした。色んな話があって、将来が不安」
【芦屋市で被災した参加者】
「最近、咳や痰がからむのが結構あって、余計にこの問題が気になる」
【西山和宏事務局長】
「一人ひとりの市民の方がアスベストの危険性について認識を持ってもらって、自ら身を守ることを継続してもらいたい」
急激に進んだ復興の裏側で、街中に飛散したアスベスト。
住民の不安を解消するために、国や自治体は実態調査や健康管理をさらに進める必要があります。
阪神・淡路大震災から20年となる1月17日、特別番組を放送します。
震災で亡くなった人たちに思いをはせ、次の世代に記憶と教訓を伝えていきたいと思います。
http://www.ktv.jp/shinsai20/index.html
2015年1月12日放送