クウェートの石油労働者の3日間のストが終わりました。

このストライキでは同国の石油労働組合員の約半数にあたる7千人がストに参加しました。

その結果、クウェートの原油生産は瞬間風速で半減(-200万バレル)しました。

これはOPECのスペア・キャパシティにほぼ匹敵する量でした。あるいはエクソン・モービルの生産量の半分が失われたのに相当しました。

ストが終わったので、原油市場は再び需給関係中心のストーリーに戻ってゆくと考えられます。

その需給関係は引き続き供給過剰です。

ただ今回のストの教訓としては、「原油価格が低迷し、国庫が圧迫されているからといって、政府が安易に給与カットとかリストラを打ち出すと石油関係者は黙ってませんよ」ということがデモンストレーションされたという点にあると思います。

同様のプレッシャーは、メキシコのペメックスやベネズエラのペベデサも感じているわけだから、今後、世界の別の処で、今回のような「油断」が起きる可能性は排除できないということでしょう。

さて、このニュースに相前後して、「サウジ・アラムコがIPOアドバイザーとしてJPモルガンとマイケル・クラインを起用した」というニュースが入ってきました。

早ければ2017年にも新規株式公開(IPO)を目指したいということです。

これは過去最大のIPOになると思います。

まずサウジ・アラムコは世界最大の国有石油会社で、保守的に見積もってアップルの1.5倍から2倍の時価総額になると思います。

サウジ・アラムコの確認埋蔵量は2,611億バレル、天然ガスが294兆立方フィートです。また原油生産高は950万バレル/日です。生産コストは6ドルです。

いま比較のためにエクソン・モービルの原油生産高は410万バレル/日です。XOMの時価総額は3,607億ドルです。

サウジ・アラムコの原油生産高はXOMの2.32倍なので、単純に時価総額も2.32倍するとサウジ・アラムコの時価総額は8,358億ドルになります。その1割をIPOしたとして調達額は836億ドルになります。(もちろん、もっと精緻なフェアバリューの計算をすべきだと思いますが、いまは情報が限られていますので)

過去最大のIPOはアリババで、250億ドルでしたから、その3.3倍ということになるわけです。

サウジアラビアがサウジ・アラムコをIPOするというのは、至極当然の決断です。

なぜならこれまでは原油価格が安くなると財政均衡のために余計に原油を増産しなければいけない……すると需給が崩れ、もっと自分の首を絞める、、、そういうアホな構図になっていたからです。

折角、何十年もかかって積み上げたオイルマネー、そのソブリン・ウエルス・ファンドを、ほんの数年のうちに吹っ飛ばしてしまう……これはダメなやり方です。

サウジ・アラムコをIPOすることでサウジアラビア政府の資金計画の柔軟性は俄然UPするし、重要な産業構造の大改革を加速することも出来ます。

また無策にソブリン・ウエルス・ファンドを取り崩してしまうことも防げるわけです。

同国の化石資源のマネタイゼーションのタイミングならびにその経路を、ずらしてやる……これがIPOの狙いであり、それは大いに理に適ったやり方です。

主幹事にJPモルガンが指名されるのは、順当だと思います。なぜならJPモルガンはチェース・マンハッタン銀行と合併したからです。チェース・マンハッタンはロックフェラー系の銀行であり、中東のオイルマネーとも歴史的に関係が深いです。

サウジ・アラムコ自体、1920年代にソーカル(現在のシェブロン=スタンダード石油カリフォルニア)がサウジの石油開発のために設立した会社です。その後テキサコ、エクソン、モービルなどが出資しました。

つまりサウジ・アラムコはロックフェラー帝国の中核企業だったということ。

1973年の第4次中東戦争(ヨムキプル戦争)が勃発した際、アメリカはサウジアラビアに対し、イスラエルに干渉しないことを要請しました。その見返りとしてサウジ・アラムコの25%株式をサウジ政府に譲渡したのです。その後、サウジ政府による二度の買い増しを経て1980年に100%取得、完全国有化されました。

だからこのIPOはスタンダード石油出身者の同窓会のような雰囲気があります。

マイケル・クラインは元シティのバンカーですが、たぶん今回のIPOのフェアネス・オピニオンを担当すると思います。

これだけデカいディールとなると、幹事団も大きくなるはず……。

サウジアラビアはユダヤ系とは商売しないので、ゴールドマン・サックスは幹事に入れない可能性があります。

いずれにせよ2017年にIPOするなら今から準備に入る必要があるわけで、アナリストやバンカーはあまり石油株の見通しにネガティブな意見を言い続けると、バスに乗り遅れるリスクがあります。

大政翼賛会的なムードになることが予想されるわけです。