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このたび講談社ブルーバックスより『基準値のからくり』を上梓した。この本は、世の中にあふれる「安全」にまつわる基準値が、どのようにして定められたのかを紹介したものだ。
食品に基準値の何万倍もの農薬が含まれていたとか、どこそこの大気中のPM2・5は基準値の何倍だ、などというニュースをたびたび耳にする。原発事故後に出された、飲み水や食品の放射性物質の濃度や、避難と帰還に関する被曝線量については「基準値を超えた/超えない」といった議論がいまだに尽きない。
しかし、その一方で、基準値がどのような根拠で決められたのかを知っている人はさほど多くないのではないだろうか。基準値と聞けばその根拠が知りたくなる私や共著者(永井孝志・小野恭子・岸本充生)の経験則からいえば、基準値はしばしば、奇妙な根拠にもとづいて定められている。超えた/超えないで一喜一憂する前に、この奇妙な基準値の「からくり」をもっと多くの人に知ってほしい。そう思ったのが本書を著したきっかけである。
具体例を一つ挙げよう。日本では20歳未満の飲酒は法律で禁止されているが、なぜ「20歳」に決まったのか、ご存じだろうか。この数字は、脳の機能が低下するとか、臓器に障害を起こすといった疫学的な研究にもとづいて定められたものではない。それ以前に、「成年は20歳」とされていたからである。つまり、自己責任がとれる、法律の面で自立している年齢であることが重視されたのだ。では、なぜ20歳が成年と決まったのだろうか?
その根拠は、旧民法制定よりもさらに前の、明治九年の太政官布告にまでさかのぼる。当時、欧米諸国は21~25歳程度を成年年齢としていたが、それらの国の文明や制度を学んでいた日本は、より若い20歳を成年と定めた。その理由が面白い。日本人は欧米人と比べて「精神的に成熟しており」、「平均寿命が短い」からだというのだ。現在の日本人にあてはめると首をかしげざるをえないが、こうした理由で決まった「成年は20歳」という根拠が脈々と受け継がれ、いまも20歳未満の飲酒が禁止されているのである。
本書では、飲食物・環境・事故という三つの分野を中心にさまざまな基準値とその根拠を紹介しているが、どの分野の、どんな基準値にも、まるでミステリー小説のような謎とからくりがある。たとえば、次のようなものである。