昔、ロシアのサンクトペテルブルグで日本語を勉強している学校の交流会に参加したことがあったんだけどさ。言葉が通じぬ国で7泊9日過ごしてきたんだよ。
もうね、言葉が通じないからこそ感じたことがあったんだ。それは感謝の表現についてなんだけどね。日本だったら言葉で感謝の気持ちを伝えられるし、それで気持ちを汲みとってもらえたりするでしょ。
でも、お互いに国が違って言葉が通じない場合、どう表現したらいいのか考えなければいけないじゃないかな。ロシアの子供たちとの交流会の前日に日本の唄の公演があってさ。
日本語を勉強しているロシアの子供たちが、ぞろぞろと客席に集まり出して席に座りはじめたんだよ。自分はどうぞ席に座ってくださいと片言のロシア語で、
「パジャルスター(どうぞー)」と言い、「ズドラーストビッチェ(こんにちは)」と挨拶の言葉を連発したんだよ。傍から見れば片言のロシア語を連発する不思議な日本人に見えたかもしれない。
自分なりに日本とロシアの交流ができればと考えていたんだ。少なくとも自分はロシアの子供たちに日本人は挨拶もしてこない無愛想な奴だと思われたくなかった。
また、ロシア語の講師に、とにかくロシア語を連発してこい。どの言葉を何回言ってきたか後で報告だぞ! という指令が頭に残っていたのもあった。
言葉を連発することで無意識に身体でおぼえさせ、自然にロシア語がでるようにしたいという気持ちもあったんだ。気持ちは態度で伝わると言うけれどさ。
自分のロシア語の連発は小さなロシアの少女に勇気を与えたみたい。ロシアの少女は自分に近づいてきたんだよ。
「こんにちは。私の名前はマーヤです」
恥ずかしそうにその少女は言ったんだ。いきなり日本語をしゃべる少女に面食らってしまったんだけどね。自分も負けずにおぼえたてのロシア語で話すことにした。
「マヤ ファミーリャ イシカワ (私の名字は石川です)」
するとロシアの少女は、
「プレゼントです」
なんて言って自分にバッチを渡してきたんだよ。
「おっバッチだ。スパシーパ パリショエスパシーパ(ありがとう、どうもありがとう)」
自分は言葉にだして感謝を伝えたんだ。少女はニンマリと微笑み、日本式に一礼すると恥ずかしそうに自分の元から去っていった。そして、自分の座っている席の前列の席に座ったんだよ。
※ユーリオとロシア少女の写真です。写真中央はロシア少女のお母さんです。
自分はもらったバッチをすぐにスーツの前ポケットのところに取り付け、感謝の気持ちを言葉ではなく行動でしめしたんだけどさ。妙な悔しさがふつふつと沸いてきたんだ。
あぁ、何てことだ! 自分は何もプレゼントを用意していない。こんな展開になるんだったら、事前にプレゼントを用意しておけばよかった。
日本語を勉強している少女だから日本語の書かれているものをプレゼントしたらいいかもしれない。自分はポケットから名刺入れを取り出し、少女に話しかけて名刺を渡したんだ。
「どうもありがとうございます」
少女は日本語で感謝の言葉を言ったけど、子供にとって紙きれの名刺がとても喜べる代物ではないはず。
頭をぐるぐると回転させ、自分はズボンから小銭入れを出し、中から5円玉を取り出した。この穴のあいている日本の硬貨だったら珍しいし喜んでもらえるかもしれない。
自分は再度少女に話しかけ、5円玉をプレゼントしたんだよ。ロシアの少女は不思議そうに5円玉を見つめている。自分はロシア語で何て言ったらいいのか分からず、日本語で、
「これは日本ではご縁があるようにと渡すコインです」
なんて何度も連発したんだ。それからすぐに舞台ではロシアの女の子たちが日本語を唄い始めたんだ。
自分は心の中で思った。
「この出来事が少女にとって思い出となり、さらに日本に興味を持ち、勉強していくさらなるきっかけになればいいなぁ」
と……。ロシア人の少女から初めてもらったプレゼントはバッチです。
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上記、事業内容をしている株式会社ウェルクスが運営するリハビリのお仕事Magazineにて、石川ユーリオが執筆するコラムが掲載されました。今後、こちらで月1連載していきます。
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