宋美玄のママライフ実況中継
コラム
自民党議員の「貧困女子はキャバクラに」発言を考える
4月14日、熊本県で大地震が起き、現在まで余震が続いています。亡くなられた方に哀悼の意を示すとともに被災された九州の方々に深くお見舞い申し上げます。ご自宅や避難先で不自由な思いをされている方が一日も早く震災前の生活を取り戻すことができますようお祈りいたします。
産婦人科医でもある赤枝議員の発言が波紋
自民党の赤枝恒雄衆議院議員の子どもの貧困対策を推進する議員連盟の会合での発言が波紋を呼んでいます。貧困世帯の子どもが教育を受けるチャンスを広げるために奨学金制度の拡充を求める発言に対し、「やる気がないのに親に 無理矢理 通信制の高校に進学させられた女子はキャバクラに行ったり、望まない妊娠をしたりする」と発言したとのことです。発言のテープ起こしのような新聞記事によれば、さらに、10代の8割はできちゃった婚で、離婚して一人親になり貧困になっていくため、中学までの義務教育が大事だと述べ、高校や大学は自分の責任で行けば良いので奨学金を求める声に「がっかりした」と述べられたとのことです。そもそも貧困世帯の子どもが自分の責任で高校や大学に行くのはハードルが不当に高いためそのような要望が出ているので、話が 噛 み合っていないことが気になりますが、赤枝氏の発言を産婦人科医として考えてみたいと思います。
私も思っていた「教育や知識こそすべて」だと
赤枝氏は産婦人科医として大先輩にあたる方であり、直接存じ上げないのですが、六本木で社会的ハイリスクの女性の診療を熱心に行ってこられたと伺っています。私はまだ若輩ですが、望まぬ妊娠や若年妊娠が多く、一人親家庭も多い地区で10代20代の女性を診療(妊婦健診も多かったです)した経験があり、患者さんたちが妊娠や避妊の知識を十分に持っていないことが望まぬ妊娠や若いうちのできちゃった婚、ひいては自活する力のないままシングルマザーになることにつながっていることにやりきれない思いを抱きました。教育こそすべての子どもに必要で、妊娠出産についての正しい知識の啓発が大事だと強く思いました。すべての女性に、正しい知識のもと、主体的なバースコントロールを行ってほしいとインターネットでの情報発信を始め、いろんな媒体で多様な切り口で情報発信を行い、どうすれば知ってほしい人に興味を持ってもらえるかということに腐心しつづけています。ですから、赤枝氏が「義務教育が大切だ」と考えていることは理解出来ます。
しかし、貧困や社会的ハイリスク家庭を診察室以外の場所で支援したり研究したりしている方の勉強会に出席したり、書物を読んだり、直接話を聞いたりしていくうちに、望まぬ妊娠や若年妊娠は単に知識の不足ではなく、知識さえあれば妥当なライフプランニングができるかというとそんなことはないということが分かってきました(例えば、若く子どもを産む女性の中には、生まれ育った家庭以外の居場所を求めて望んで新しい家族を早く作るということもあることや、成育過程で自分が大切な存在だと思うことができなかったためパートナーに嫌われたくなくてコンドームを着けてと強く言えないということもあること、など)。
義務教育や高等教育よりも幼児教育や親子の愛着
貧困、若年妊娠、虐待、低学歴などが世代間連鎖をしやすい(絶対に連鎖するという訳ではありません)ということは多方面で社会問題となっており、多くの政治家や社会活動家がその連鎖を断ち切る方法を模索しています。最近は「『学力』の経済学」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)という本がベストセラーになるなど教育にもエビデンスという概念が取り入れられ始めました(初等教育より、就学前の幼児教育の投資効果が高いことも話題になっています)。私自身は義務教育や高等教育よりも幼児教育(とそれに注力出来る家庭環境)が一番大切ではないかと思っています。そして何よりも生まれてすぐからの親子の愛着が重要ということはこちらのブログでも何度か書いていますし、WHOが健康の社会的決定要因について書いた提言にもその重要性が言われています。
赤枝氏の発言は、臨床経験が豊富な一人の産婦人科医の発言としては共感出来ますが、制度設計や富の再分配に関わる政治家の発言としては、少し思い込みが強いものだったのではないかと大変 僭越 ながら感じました。
医師の臨床経験は一朝一夕では成らない貴重なものですが、視点としては偏ってしまうことも事実で、私も常々気をつけて肝に銘じなくてはいけないと思っています。赤枝議員には貴重な臨床経験をぜひ日本のために使っていただきたいと産婦人科医として期待しています。
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