ウィンドウコントロール
近年のメディアの多様化に伴い、映像コンテンツの需要が高まっています。
ここでは、わたしたち映画業界がそれにどう対応し、ビジネスを展開しているのかについて解説したいと思います。そのキーワードが「ウィンドウコントロール」です。
○映画が「生もの」と呼ばれていた時代
かつて、映画という商品は「季節商品」あるいは「生もの」と呼ばれてきました。なぜなら映画は劇場公開後、短いもので数週間、ロングラン作品でも6ヶ月ほどで市場から姿を消す商品であり、その点ではシーズンが過ぎるとバーゲンに回される衣料品や、賞味期限が切れると廃棄される食料品などと同様だったからです。
もちろん、従来からテレビ放送による放映権収入はありましたが、それ以上ビジネスとしての拡がりはなく、映画産業はあくまで劇場での興行収入頼りのビジネスモデルだったといえるでしょう。
ところが1980年代以降、映画ビジネスのあり方が急激に変化していきます。
○メディアの発達が映画ビジネスを変えた
まず1980年代に入ると、ビデオが家庭に普及。1990年代以降には、BS/CS放送の開始、ビデオに代わるDVDの登場、ブロードバンドの普及によるネット配信と、立て続けに新たな映像メディアが誕生しました。その結果、映像コンテンツへの需要が飛躍的に増大し、「映画」という商品に新しいビジネスの道が拓かれました。すなわち、劇場公開後の映画作品を、それぞれのマーケットへリリースすることで、今までになかった収入を上げることができるようになったのです。
○ウィンドウコントロールとは
ここ数年、メディアの多様化による映像コンテンツ需要の高まりに応え、映画業界はコンテンツのリリースを積極的に展開しています。そして、DVD市場や各放送メディアでの放映権ビジネスで最大限の収益を得ることができるよう、各メディアへの作品のリリース時期をずらし、互いのビジネスを侵食しないようにコントロールをしています。このリリース戦略のことを「ウィンドウコントロール」と呼んでいます。
劇場公開後の映画は、この戦略に則り、約半年後にDVD・Blu-ray化され、配信、BS/CS放送、地上波といった放送メディアへと数ヶ月ごとの期間をおきながら順次リリースされ、放送されます。ここではリリースのタイミングが非常に重要です。つまり、リリースのタイミングが早すぎたり、逆に遅すぎたりすると、収益の最大化を図ることが難しくなるのです。例えば劇場公開後1ヶ月でDVDが発売されるとしたら、DVD化を待つ人が増え、興行ビジネスに悪影響が出ますし、逆にDVDの発売が1年後だとしたら、作品の持つ鮮度が失われ、ソフトの売り上げは伸びないでしょう。
ウィンドウコントロールとは、このように人々の消費行動をマーケティングの見地から分析した結果生まれたビジネス上の戦略のことなのです。
○コンテンツホルダーの時代へ
いまや「映画」は、良質な作品であればそれだけ長期間にわたって利益を生み続ける息の長い商品であり、「生もの」と呼ばれた時代は過去のものとなりました。そして、良質な映像作品を創り出し、その作品の権利を保持して行く限り、今後どのようにメディアの態様が変化しても、ビジネスのチャンスは拡がりこそすれ縮小することはありません。「ウィンドウコントロール」によってそれぞれの映像メディアでビジネスを成立させることができるからです。
情報インフラの目まぐるしい技術革新はこれからも続いていくと予想されます。とすれば「コンテンツの権利確保」が何より大切になってきます。東宝が自社制作体制を強化し、製作出資も活発に行っているのは、“コンテンツホルダーの時代”に勝ち残るためなのです。