特撮の申し子・樋口真嗣監督に訊く、『サンダーバード』の衝撃
『サンダーバード音楽集 ~オリジナル・スコアによる』- インタビュー・テキスト
- 麦倉正樹
- 撮影:豊島望
『サンダーバード』っていうのは、作中に登場するメカのおもちゃを作って、それを売るっていうパターンの最初の成功例なんです。全部ここから始まってる。
―(笑)。そう言えば、樋口さんは、もともと火薬班から特撮のキャリアをスタートさせたんですよね?
樋口:そうなんですよ。やっぱり俺は、爆破する仕事がやりたくてこの業界に入って……まあ才能がなくて、そこからいろいろたらいまわしにされて、今に至るという感じなんですけど。
―やはり、『サンダーバード』のような爆発のカタルシスに惹かれていたところがあったのですか?
樋口:ありましたね。『サンダーバード』の特撮監督をやっているデレク・メディングスという人がいて、『サンダーバード』が終わったあと、次に彼が何をやったかというと、『007』の映画の特撮なんですよ。『007』も、意味無く爆発したりするじゃないですか。映画的にはハラハラするけど、その自爆装置なんで作動してんの? 主人公も結局止めらんなくて敵の秘密基地が大爆発する。止められない時点で失敗じゃん(笑)。
―そのへんの影響というのは、樋口監督の作品にも……。
樋口:もう、めちゃくちゃ影響を受けていますよね。僕が自分の映画のなかで爆発をやるのは、多分そのせいというか、爆発のない映画はやらないみたいな(笑)。
―(笑)。そこでふと疑問に思うのですが、『サンダーバード』の作り手たちは、本当に子ども向けの作品として作っていたのでしょうか?
樋口:まあ、表向きは絶対子ども向けだと思いますよ。でも、明らかに自分たちがやりたいことを優先しているような気はしますよね。それも大人になってから、だんだんわかってきたことですが(笑)。ただ、子ども向けという話では、その当時、イマイっていうプラモデルメーカーが、『サンダーバード』のプラモデルをものすごい数出していたんですね。そうやって架空のメカのおもちゃが商品化されたのは、多分『サンダーバード』が最初だったんじゃないかな?
―なるほど。
樋口:しかもそれが、ものすごい商業的に成功してしまったと。だから、最初は怪獣中心だった『ウルトラマン』も、その後の『ウルトラセブン』から、メカにも力を入れるようになったんですよね。ウルトラホーク1号、2号……ってネーミングからして、ほとんど、そのままですけど(笑)。
―そんなところにも、『サンダーバード』の影響が。
樋口:それはもう、影響とかいうレベルではなくて、僕らの先輩の話によると、当時は『サンダーバード』をみんな見ろって上映会をやったり、イギリスのプロダクションに研修に行ったりするぐらい、交流しながら積極的に取り入れようとしていたみたいですね。そういう意味では、イギリスと日本という同じ島国同士、どこか似た感覚があったのかもしれないです。
―どういった共通点があるのでしょう?
樋口:それが最近のアメコミ映画って、メカを大切にしないんですよね。飛行機とかが出てきても、必ず墜落する。『X‐メン』の飛行機も活躍する前に墜落したし、『アベンジャーズ』も、すごくでかい空中空母みたいのが出てくるけど、あれも結局落ちちゃうじゃないですか。日本人やイギリス人は、おもちゃを……いや、メカを大切にするんです。『サンダーバード』も、ゲストで登場するメカは毎回爆発するけど、主人公たちのメカは危機一髪でも絶対に壊れないんですよ。
―だからおもちゃとしても人気がある。
樋口:そういうことです。アメリカ人は、主人公のメカであろうとめちゃめちゃにする。あれだけ壊されちゃうと、おもちゃが欲しくなくなるんですよね(笑)。だからまあ、『サンダーバード』っていうのは、作中に登場するメカのおもちゃを作って、それを売るというパターンの最初の成功例なんです。全部ここから始まってる。
Thunderbirds ™ and © ITC Entertainment Group Limited 1964, 1999 and 2016. Licensed by ITV Ventures Limited. All rights reserved.
Thunderbirds ™ and © ITC Entertainment Group Limited 1964, 1999 and 2016. Licensed by ITV Ventures Limited. All rights reserved.
―資源の少ない島国だからこそ、メカを大切にする気風が共通しているのかもしれませんね。そうして今や、メカのプラモデルとかおもちゃとかフィギュアは一大産業になった。その原点に、イギリスの『サンダーバード』があったわけですね。
樋口:『サンダーバード』でデレク・メディングスが作ったメカって、実際の飛行機をモデルにしていることが多いんですけど、イギリスの飛行機って、ちょっと変わったところがあるんですよ。全部イギリスが独自で作っているから、アメリカの飛行機のシュッとした感じとは違う、何かボデッとしてたり、バランスが悪かったり……「何でこんな形になったの?」っていう飛行機ばかりなんです(笑)。ただ、そのちょっと独特なラインというのが『サンダーバード』のメカの魅力だし、そういう部分は確かに、日本人に響いたんじゃないですかね。あと、『サンダーバード』の登場人物はお金持ちが多くて、彼らが人助けをする。イギリスは王侯貴族の文化や伝統があるので、そういう気高くて優雅な感性を好むけど、絶対、アメリカ人には理解されないだろうなって(笑)。実際『サンダーバード』は、アメリカのテレビ局への売り込みに失敗しているんですよ。イギリスと日本だけで、爆発的な人気を誇っていたらしいです。
リリース情報
- 『サンダーバード音楽集 ~オリジナル・スコアによる』(CD)
-
2016年4月13日(水)発売
価格:3,240円(税込)
COCQ-852891. オープニング・テーマ
2. フッドとファイアーフラッシュ号(SOS原子旅客機・組曲)
3. ファイアーフラッシュ号着陸(SOS原子旅客機・組曲)
4. ペネロープ号の追跡(SOS原子旅客機・組曲)
5. トレーシー・ラウンジ・ピアノ(SOS原子旅客機・組曲)
6. サンダーバード・マーチ
7. ロケット“太陽号”の危機
8. 火星ロケット輸送車
9. 独占スクープ失敗(ニューヨークの恐怖・組曲)
10. エンパイア・ステート・ビルの移動(ニューヨークの恐怖・組曲)
11. ネッドの救出(ニューヨークの恐怖・組曲)
12. サンダーバード6号~メイン・テーマ
13. トレーシー島
14. ゼロX号のテーマ
15. スポーク・シティ・ジャズ
16. ゴングの命運(ジェット“モグラ号”の活躍・組曲)
17. 危険な穴(ジェット“モグラ号”の活躍・組曲)
18. 救助!(ジェット“モグラ号”の活躍・組曲)
19. イージーリスニング・ラジオ・ミュージック
20. 東南アジア道路でのドラマ(死の谷・組曲)
21. 絶望的な挑戦(死の谷・組曲)
22. 救助に向かうサンダーバード(死の谷・組曲)
23. エンディング・テーマ
24. 日本版「サンダーバード」主題歌
イベント情報
- 『サンダーバード&ファンタジー・フィルム・スペクタキュラー・コンサート』
-
2016年4月16日(土)OPEN 12:30 / START 13:00
会場:東京都 新宿文化センター 大ホール
指揮:榊真由
演奏:東京ガーデン・オーケストラ
料金:指定席3,500円 一般自由席2,500円 学生席1,500円
プロフィール
- 樋口真嗣(ひぐち しんじ)
-
1965年生まれ、東京都出身。平成ガメラシリーズでは特技監督を務め、日本アカデミー賞特別賞を受賞。監督作品に『ローレライ』、『日本沈没』、『のぼうの城』、実写版『進撃の巨人』など。2016年公開予定の『シン・ゴジラ』では監督と特技監督を務める。