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 「パナマ文書」で突如、世界の注目を浴びた中米パナマ。大西洋と太平洋を結ぶ交通の要衝で、金融などのサービス産業でも発展してきた。国内には、文書の名称に国名が冠せられたことへの反発が浮かぶ。

 国際空港から海沿いの高速道路を首都へ約20分。林立する高層ビル群が現れる。中でも目を引くのは米国の実業家ドナルド・トランプ氏が建てたホテルだ。約70階建てで、数年前まで中南米一の高さを誇った。

 「我が国には運河、金融センター、港湾がある。シンガポールのような国家が目標だ」。来日したパナマのバレラ大統領は19日、朝日新聞との会見で、金融・物流の拠点として発展するシンガポールを理想像として掲げた。

 パナマ経済は成長率6%(2015年)と好調だ。パナマ運河の拡張工事も、予定より2年遅れながら「6月26日に完工する」(バレラ大統領)。

 大統領の今回の来日は、首都パナマ市に建設する約27キロのモノレールの導入合意などが目的だ。「パナマを、米州に向けた『日本の技術力のショーケース』としてほしい」

■「罪問うの困難」

 そんなパナマ経済の中心地、銀行や保険会社が集まる「国際金融センター」地区に、文書の流出元の法律事務所「モサック・フォンセカ」はあった。

 ガラス張りのビルは4階建てで、2~4階を法律事務所と関連オフィスが占める。入り口は2人の守衛が固め、関係者以外は足を踏み入れることはできない。

 「国際調査報道ジャーナリスト連合」(ICIJ)によると、モサック・フォンセカはペーパーカンパニーを作る法律事務所としては世界で五指に入る規模だ。世界に40以上の支店を持ち、500人以上の従業員を抱える。13日、検察当局が家宅捜索で大量の電子データを押収。不正の有無について捜査を始めた。

 だがパナマの法曹界では、違法性を問うのは難しいとの声が強い。

 パナマ弁護士会のフアン・アラウス副会長は「パナマでペーパーカンパニーの設立は合法。弁護士と顧客との間の秘密保持も憲法で保障されており、罪に問うのは難しい」と話す。「検察の捜査は国際社会の圧力に応えただけだ」とみる。

 パナマでは、国際化や外資の呼び込みを狙って1927年、国内の収益にのみ課税される法律が作られた。ペーパーカンパニーを巡るサービス成長のきっかけとなった。

 アラウス氏は「ペーパーカンパニーの設立は弁護士の日常業務。3~5日で登録が終わる。モサック・フォンセカだけが特別だったわけではない」と話す。

 「ペーパーカンパニーを作るサービスは米国やカリブ海諸国でも行われている。今回はたまたまパナマから文書が漏れただけだ」

 別の弁護士(51)も言った。「ナイフで人が刺されても、ナイフメーカーの責任は問えない」

■「名前を汚すな」

 「パナマ文書」問題は、そうした「金融立国」路線に冷や水を浴びせた。

 国内では、「パナマ文書」という名称に強い反発が出ている。同国の有力紙ラ・エストレジャのアナ・セルド副編集長は「パナマ国内では、世界の指導者らの節税疑惑よりも、パナマ文書という名前への反発が大きい」と話す。

 反発は、タックスヘイブン(租税回避地)とは無縁そうな庶民にも広がる。

 スキャンダルの震源地となった国際金融センターのビル群から少し離れると、トタンをふいた平屋建ての簡素な家々が並んでいた。

 ニワトリがまわりを歩き回る自宅前で涼んでいたロドリゴ・セデニョさん(51)は、「何に腹が立つって、パナマ文書って名前だよ」と不満を口にした。

 「パナマの名前は汚してほしくない。優しい人々、豊かな文化と料理。そんな魅力的なパナマを知ってほしい」(田村剛=パナマ市、石田博士

■バレラ・パナマ大統領の主な発言内容

○「パナマ文書」問題を受けた租税回避問題への各国の連携強化で、先進7カ国(G7)首脳会議に期待

○2018年までに経済協力開発機構(OECD)の金融口座情報交換の枠組みに参加。ただ情報交換は二国間で

○日本と租税情報交換協定の締結に向けて取り組むことで合意

○パナマ市の交通渋滞対策で日本式のモノレール(約27キロ)を導入

○拡張工事をしてきたパナマ運河は6月26日に完工。通行料は値上げしない

     ◇

 〈パナマ〉 面積は北海道よりやや小さい約7万6千平方キロメートル。人口は約387万人。1914年に完成した、太平洋と大西洋を結ぶパナマ運河の運営を中心とした経済構造で、観光、金融業が発達。1人当たりの名目国内総生産(GDP)は1万1147米ドル(2014年)で、サービス業が国内総生産の約8割を占める。

 パナマ運河は長年米国の支配下に置かれていたが、99年末に、強い要求を受けて返還された。