心配された事態が足早に現実のものとなった。震災の関連死という新たな犠牲者である。

 強い余震が続く熊本地震の現場で、被災者たちの健康被害が広がっている。医療救援体制の強化が火急の課題だ。

 死亡が確認されたのは熊本市内の51歳の女性で、車の中で寝泊まりしていた。エコノミークラス症候群と呼ばれる肺塞栓(そくせん)症だった。

 長く同じ姿勢を保つことで、ふくらはぎの静脈などに血栓ができる。動き始めた途端にこの血栓が足の血管から離れ、肺の動脈をふさぐ病気だ。

 症状を訴える複数の被災者が熊本市などの病院に相次いで入院している。ほかにも患者は増え続けており、04年の新潟県中越地震の時より発生ペースが速いと指摘する医師もいる。

 血栓を防ぐには水分を十分とり、運動をすることが必要だ。

 だが避難所には飲料水や使いやすいトイレが不足しており、トイレ回数を減らすために水分をひかえる。余震の恐れや体調不良で体もあまり動かさない。そんな悪条件に陥りがちだ。

 ほかにも避難者の健康を脅かす問題が次々表面化している。

 阿蘇市の避難所では震災後のストレスや疲労によると疑われる急性心不全で77歳の女性が死亡した。避難所によってはインフルエンザやノロウイルスなどの感染症もおきた。滞積した生ゴミなど衛生状態の悪化に加え、心のケアも気になる。

 劣悪な生活環境が高齢者や子ども、持病のある人々らを今後も悩ますのは必至だが、電気や水道、ガスが確保できない病院もまだ多い。透析患者を県外の病院に移すなどの連携も進んでいるが、広く被災地域を見渡して情報を集約し、一刻も早く医療体制を整える必要がある。

 厚労省が指定した各地の緊急医療チームや、ボランティアの医療グループが、県外から次々と現地入りしている。保健師や薬剤師も含めた効率的な配置を実現するため、指揮系統の確立を急がねばならない。

 政府や県外自治体、NPOには、避難生活の向上のための強力なバックアップを望みたい。被災者の負担が少しでも軽くなるよう、清潔なトイレの設置支援や、プライバシー確保の工夫などが必要だ。

 被災者の中にも、医療の経験や知識を持つ人はいるだろう。避難所でできることを積極的に共有し、呼びかけてほしい。

 体操や水分確保など体調管理や感染症予防の消毒など、避難所で誰もが命と健康を守るために声をかけ合いたい。