ここ数年、都心部の百貨店は旺盛な訪日外国人(インバウンド)の需要に支えられて業績が回復しつつある。立地にもよるが、訪日客に人気のエリア、東京・銀座に店を構える三越銀座店や松屋銀座店は免税売上高が百貨店売上高全体の2割を超える。関西地区では大阪・心斎橋の大丸心斎橋店がインバウンド集客において圧倒的な存在感を示している。
訪日客の需要をさらに囲い込もうとする動きも出ている。三越伊勢丹ホールディングスは、三越銀座店や福岡三越に空港型市中免税店を開業するに至った。高島屋も来春、高島屋新宿店内に市中免税店をオープンする予定だ。
インバウンド比率の低い百貨店
今や百貨店の業績はインバウンド頼み――。こうした状況がもはや当たり前となりつつある。
無理もないだろう。2012年末のアベノミクス開始以降の円安・株高政策で日経平均株価は8000円から一時、2万円まで上昇。脱デフレに向けて賃上げ圧力は高まったものの、物価上昇分と相殺され、実質賃金は増えていないのが現状だ。
物価の上昇トレンドは続いている。消費者物価指数は2014年4月の消費増税分を除くと横ばいの動きが続いているが、食品や日用雑貨に限って見ると景色は異なる。円安が進んだことで輸入品を中心に原材料価格が上昇し、店頭価格に反映されている。2015年の消費者物価指数を見ると、生鮮食品を除く食料は前年比で2.4%の伸び。肌感覚では物価は上がっているといえるだろう。
株高で恩恵を受けている富裕層以外では、なかなか立ち上がらない国内消費をどう呼び込み、収益につなげていけばよいのだろうか――。
インバウンドだけではない、国内消費活性策を熱心に考えている百貨店がある。「東の伊勢丹、西の阪急」と呼ばれる、全国百貨店売上高2位の阪急うめだ本店だ。
同店の売上高に占めるインバウンド比率は約7%(メンズ館を含んだ阪急百貨店本店全体の数字)と、都市部に店を構える大型百貨店としては高くない。日本人を対象にこれだけの売上高を確保できるのはなぜか。今回、うめだ本店の食品売り場の取り組みを通じて、その秘密を垣間見ることができた。