(英エコノミスト誌 2016年4月16日号)

ロシアのWTO加盟式典で演説するエリビラ・ナビウリナ経済開発大臣(当時)。 Photo by United States Mission Geneva via Wikimedia Commons, under CC BY 2.0

ロシア経済はひどい状況にあるが、エリビラ・ナビウリナはもっとひどい事態になるのを防いだ。

 エリビラ・ナビウリナ氏が資本主義に初めて触れたのは、大学で受けた「西側経済理論批判」という名の講義でのことだった。現代の中央銀行家としては異例のスタートだ。そして今日、ナビウリナ氏はまた別の矛盾を体現している。

 ロシア経済はもう何年も前から汚職や一部の企業・個人の利権に足を引っ張られているうえに、最近は西側諸国による経済制裁や主要な輸出産品の石油とガスの値下がりにも見舞われている。ところが、ロシア中央銀行(CBR)はテクノクラートの有能な政策立案のモデルになっている。ナビウリナ氏が総裁に就任した2013年以降、CBRはロシア経済が――今でもひどい状況には違いないが――さらにひどいトラブルに陥ることを防いできたのだ。

 穏やかな話し方をするナビウリナ氏は裕福な家の生まれではない。母は工場の従業員で、父はお抱え運転手だった。しかし同氏はもう何年も前から、ロシアの市場経済への移行という乱気流の中心に身を置いている。

 ウラジーミル・プーチン氏は2000年に大統領に就任した際、1990年代のカオスと決別すると大見得を切った。ところがエフゲニー・ヤシン元経済相によれば、こと経済に関しては「プーチンにこれといったアイデアはなかった」。

 そのためプーチン氏は、オーソドックスなものの見方をするプロ集団に経済政策を一任。ナビウリナ氏はその集団のメンバーで、2000年には副経済相、2007年には経済相を務めた。このときの経験が経済学に対する自分のアプローチに「最も大きな影響を与えた」と同氏は言う。

 石油価格が下落し世界中が停滞した2008~09年の金融危機では、ロシア経済が逃げ足の速い外国のヘッジファンドや個人投資家に依存していたことがあらわになった。

 これらの投資家が資金を引き揚げる中、CBRは通貨ルーブルの買い支えを試み、ほんの数カ月で2000億ドルを超える外貨準備を失った(図参照)。ロシア全土で貸出が減少し、2009年には国内総生産(GDP)が8%も縮小した。