キャメロン首相の課税逃れ疑惑
イギリスは6月23日、欧州連合(EU)離脱の是非を問う国民投票を行う。当初、離脱は否決されるとの見方が強かったが、ここにきて各種世論調査の結果は賛否ともに40%前後と拮抗し、イギリスのEU離脱が現実味を帯びる事態になっている。
風向きを大きく変えたのは、タックスヘイブン(租税回避地)の利用実態を暴露した「パナマ文書」で浮上したキャメロン首相の課税逃れ疑惑だ。とは言っても、非難の矛先が向く利益は300万円ほど。なぜ、この疑惑がEU離脱問題にまで影響を及ぼしかねないのか。
本稿では、国民の怒りの背景にあるイギリス版「政治とカネ」の実情とともに、パナマ文書が浮き彫りにするイギリスの「後ろめたさ」について論じたい。
本題に入る前に、キャメロン首相をめぐる疑惑について振り返っておく。
キャメロン氏は下院議員になる前の1997年、妻サマンサさんとともに、父親(2010年に死亡)がパナマに設立した投資信託に1万2500ポンド(約200万円 現在の1ポンド=約160円で計算)を投資。首相就任前の2010年1月に売却し、1万9000ポンド(約300万円)の利益を得ていた。キャメロン氏の説明によると、この金額はイギリスの課税基準以下だったため、税金は払っていないという。
世論の強い批判を受け、キャメロン氏は10日、過去6年分の納税証明を公表した。この中で、2011年に母親から計20万ポンドの生前贈与を受けていたことが表面化。贈与側(母親)が7年以上生きればこの金額は課税対象とはならないが、父親の投資ファンドからのお金ではないかとの疑いも消えない。
キャメロン氏は、どちらのケースも「まったく違法ではない」と主張している。しかし、世論が問題としているのは、政治家としての「道義的責任」であり、違法でないから問題なしとはならないのである。
イギリス版「政治とカネ」問題
この疑惑に接したとき、筆者は非常に不可解な印象を持った。
キャメロン氏は、19世紀の国王ウィリアム4世の系譜で、イートン校からオックスフォード大を卒業して政治家になったイギリスの典型的なエリートだ。妻サマンサさん(17世紀の国王チャールズ2世の系譜)とともに200万円を投資し、13年かけて300万円の利益を得たことがどれほど有り難いのだろうかと想像すると、腑に落ちないのである。